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2023-03-02 07:40

日本共産党「民主集中制」は一党独裁の危険性がある

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 日本共産党の元安保外交部長で現役党員の松竹伸幸氏は1月19日都内で記者会見し、共産党の志位和夫委員長が2000年から20年以上も党委員長を務めていることについて「国民の常識からかけ離れている」と批判した。そのうえで、「党の中にも政策の違いがあり、堂々と議論しあうことで、党の外にも見えるようにすべきだ」と述べ、すべての党員が投票して委員長を選ぶ「党首選挙」を行うべきだと主張した。現役党員が公の場で党中央を批判するのは異例であり、同氏はこうした内容を盛り込んだ著書「シン・日本共産党宣言」(文春新書)を出版した。

 日本共産党によると「党大会を2年または3年の間に1回開き、代議員による選挙で約200名の中央委員を選出し、中央委員の中から委員長ら主要メンバーが決定される。党員の直接投票で党首を選ぶ選挙を行えば、必然的にポスト争いのための派閥や分派が作られる。党は過去に分派活動により分裂した苦い経験がある。委員長は今も民主的な手続きで選出されている」としている。機関紙「赤旗」は1月21日付の編集局次長の署名記事で「党の内部問題は党内で解決するという党の規約を破るものであり、党首公選制は必然的に派閥や分派を作り組織原則である民主集中制と相いれない」などと松竹氏を厳しく批判した。共産党の志位委員長は、1月23日松竹氏の主張について「規約と綱領からの逸脱は明らか」とし上記署名記事を高く評価した。そうすると、今後、松竹氏については、時機を見て党規律違反の「反党分子」として除名処分等が不可避であろう。

 日本共産党規約3条で規定される、党内での派閥や分派を厳禁する「民主集中制」とは、レーニンが打ち出した「前衛党論」であり、労働者階級を指導する中央集権化された職業革命家の戦闘的組織原則のことである。レーニンは、「社会主義革命を成功させるためには、革命党は組織の民主主義的原則を犠牲にした中央集権的な一枚岩の単一の意思と鉄の規律を持った少数精鋭の秘密組織でなければならない」(1902年レーニン著「何をなすべきか?」レーニン全集第5巻483頁~486頁。512頁~518頁等。1954年大月書店)と述べている。このような「民主集中制」は、個人は組織に下級は上級に無条件に従ういわば軍隊組織のようなものである。司令部たる党中央が全国の党組織を支配できるのであり、その本質は「独裁制」と言えよう。革命組織の組織原則としては極めて合理的且つ有効であり、とりわけ「暴力革命」を目指す組織としては、これ以上に有効な組織原則はない。なぜなら「暴力革命」は内乱であり、その中で革命組織は軍隊でなければならないからである。

 このように、「民主集中制」が、党内での派閥や分派を厳禁し、何よりも社会主義革命を遂行するための革命党の戦闘的組織原則であり、民主主義的原則を犠牲にし、一枚岩の単一の意思と鉄の規律を重視するものであるとすれば、今回の松竹氏の党外における、全党員の投票による「党首公選制」などの意見の表明は、鉄の規律である「民主集中制」に違反する「反党分子」と見做されよう。しかし、果たして、党内においてこのような意見の表明が許されるのかどうか、極めて疑問である。党規約で全党員の投票による「党首公選制」を否定している以上は、党内で「党首公選制」を主張することも党規約違反とされる公算が極めて大きい。党内であれ党外であれ、いずれにしても、全党員の投票による「党首公選制」のような党中央に反対する主張は、鉄の規律である「民主集中制」違反として厳しく処断されるであろう。

 危険なのは、このような「民主集中制」を組織原則とする日本共産党が将来日本で政権を獲得した場合である。その場合に懸念されるのは、共産党に反対する国民の少数意見や反対意見が、一枚岩の単一の意思と鉄の規律による「民主集中制」の原則から今回の松竹氏の場合のように許容されず圧殺される「共産党一党独裁」の危険性があることである。1977年には共産党員の田口富久治名古屋大学教授も共産党に対し同様の問題提起をした。同教授は「分派の禁止には賛成であるが、その代わりに少数意見の尊重など党内民主主義を保障しなければ先進国では国民の納得が得られず、多数者革命は実現できない」(田口富久治著「多数者革命と前衛党組織論」(「現代と思想」第29号1977年)と主張した。

 しかし、当時の日本共産党宮本顕治委員長は「民主集中制」に関し、「党内のルールを社会に押し付けようというものでは絶対ない」(不破哲三著「続・科学的社会主義研究」45頁。1979年新日本出版社)と述べている。ただ、実際に日本共産党が政権を獲得した場合には、その保証はないと言えよう。なぜなら、旧ソ連のスターリン独裁政権、中国の習近平国家主席への権力集中、カンボジアのポルポト独裁政権、北朝鮮の金正恩独裁政権などを見れば、いずれも共産党に反対する国民の少数意見や政権批判を一切認めない「共産党一党独裁」の鉄の規律である「民主集中制」の原則が、共産党のみならず、国政全般にも適用されているからである。このように、「民主集中制」はレーニンが規定した通り、何よりも社会主義革命の遂行を目的とするものであるから、日本のような議会制民主主義社会の「多数決原理」とは相いれず矛盾する概念であることに留意すべきである。
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