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2023-06-01 16:28

『ジャパン・アズ・ナンバーワン』の呪縛

船田 元 衆議院議員
 先日とある会合で、福川伸次さんの講演を聞く機会があった。元通産省の事務次官経験者で、現在は東洋大学総長を務めている。事務次官当時は日本が世界の中で輝いていた時代であり、エズラ・ボーゲル博士の『ジャパン・アズ・ナンバーワン』が記録的ベストセラーとなり、日本全体が有頂天になっていた時期でもあった。ボーゲル博士は2020年12月に亡くなったが、その数年前に福川さんは彼に会ったという。その際意外にも、彼から謝りの言葉があったという。『ジャパン・アズ…』で述べたかったことは、日本の発展の原動力はどこにあり、どこに学ぶべきかを示すことだった。ところが日本を礼賛する内容と誤解され、ジャパン「イズ」ナンバーワンと受け止められてしまい、その後の日本の運命を左右してしまったと。しかしそれは、やはり日本人が誤解した方が悪いのではないか。

 このベストセラーの内容を簡単におさらいすると、まず日本の高い経済成長の基盤が、日本人の学習への意欲と、読書習慣にあるとしている。日本人の1日の読書時間の合計がアメリカ人の2倍に当たることや、新聞の発行部数の多さなどにより、日本人の学習への意欲と読書習慣を例証している。また優秀な通産省(当時)や大蔵省(当時)主導の経済への強烈で適切な関与が、日本の競争力を高めていると語っている。

 有頂天になったあとの日本は、まさに失われた30年に苛まれることとなったが、その原点がベストセラーの誤解にあったといっても言い過ぎではないだろう。多くの日本人は謙虚さを失い、働くことの価値を見出せていない。企業は内部留保を増やすだけで、勤労者に分配をしないし、前向きで意欲的な投資をしない。横並びが横行して、特筆すべき成功例や人物が疎んじられる風潮が蔓延った。新しいものに挑戦する進取の精神が失われたと、福川伸次さんは自戒も込めて言葉を付け足している。

 そしてそのような空気は、特に若者に敏感に伝わった。偏差値や輪切りにより、平均的人間を大量に作ることに躍起になり、将来に希望の持てない若者が7割にも達する始末だ。しかしこれからの日本には、平均的な優等生は要らない。チャレンジ精神旺盛な人間、ユニークで尖った人間が必要である。教育の分野では、文科省で決めた学習指導要領に、ようやく探究学習の重要性を謳ったが、知識を詰め込む系統学習で授業時間が一杯いっぱいになっており、探究学習の本気度が疑われてしまう。研究の分野でも失敗を恐れるがために、目先の成功を求めて大きな成果を逃している。日本の再生のためには、画期的な意識の改革が求められている。
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