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2023-06-06 21:40

中国に迫りくる食糧危機

赤峰 和彦 自営業
 何もかも毛沢東を真似しようとしている習近平氏。1950年代に毛沢東がやろうとして失敗したある改革にとうとう手をつけました。それが中国の農村改革です。毛沢東の大躍進政策は当時3000万〜5000万人に上る餓死者を出し失敗に終わりましたが、習近平版はどうなるのでしょうか?専門家と意見交換した内容について、次のとおり紹介します。中国は独裁政権ですが、「息が詰まりそう…自由がほとんどない」と感じているのは、実は中国の知識人ばかりで、一般庶民の感覚としてはそれほど自由が制限されているようには感じていないかもしれません。ですが、それも習近平政権になる前の話であって、習近平が政権をとってからは様々な政策の変更があり、独裁ということを忘れないようにしているようです。一番有名な例が、「城管」というシステムです。城管とは、「城市管理執法」の略称で、警察以外に都市部の秩序を管理する人間のことを指します。一番の職務内容は、露天商(屋台)の取り締まりです。中国の都会では基本的に露天商は禁止されています。しかし、店を構える資金もない貧しい人たちは、やはり露天で売るしかないのです。一番多いのは、自分の畑で作った野菜などを持ってきている農民たちです。城管がそれを取り締まるのですが、それら露天商の商品を没収し、さらには没収したものを私物化するのです。つまり城管と言えば、非常に権限が大きく、制服を着た強盗のようなものなのです。この城管は2017年から導入されたのですが、今回新しく、この農村版ができました。名前はそのまま「農管」(農業総合行政執法)です。1年前から一部の地域で試験的に導入され始め先日4月14日に正式に発表されました。その実態を見てみると、都市部に比べて農村地は人目の付かないところが多いため城管よりもやりたい放題をやっているのです。

 中国政府の発表によると、主に目的は3点あります。それらは、1.農業指導、2.農産品の安全指導、3.農村の環境管理・環境指導、です。1.農業指導に関しては、農作業をするのに農家という免許が必要になりました。それを農管が発行するのです。何十年も農作業をやってきた人間でも、農作業をするには農民免許を取らないといけないようになりました。農民免許は試験形式で確実に合格できるとは限りません。その場合、どのように農民免許をとれば良いのか?賄賂を渡したり、農管が運営する教習所に通って勉強して取得するしかありません。これだけでも農管にとっては利益になるのです。20代30代の農業知識のほとんどない人が農民を指導する状況で、素人が玄人を指導するというおかしなことになった上に、賄賂が横行するのです。2.農産品の安全指導とは、トラクターやコンバイン、田植え機を運転する際にも免許が必要となったのです。あとは偽の種や偽農薬の取り締まりも行うと言います。実際、中国には偽の種と偽農薬が結構出回っています。ですが、よく考えると本来、偽の種や偽農薬は製造や販売元を取り締まるのが正しい対応ではないでしょうか。騙されてそれを使用する農民を取り締まるのはなぜなのか。彼らも被害者のはずです。なので、これも本質的には農管導入の口実にすぎないのです。3.農村の環境管理・環境指導とは、どんな地方都市でも古い建物を立て壊し、新しいものを建てようとしているのです。習近平は「農村の環境管理」という言葉が好きでよく口にしているのですが、どんな街も現代的に見えるよう整備を進めてきました。これ自体悪いことではありませんが、歴史のある街、下町といった人情味のあるところはこれまでの古いものも混在しているのが一般的です。ですが、習近平政権になってからはその古いものを一掃しようとしているのです。都市部ではこれをやりきったようで、これから農村部で行おうとしているのです。これは、どのレベルかと言うと、農村で家畜を放し飼いにしていると、「見栄えが良くない、景観を害する、文明的ではない」という理由で取り上げるのです。

 このように非常に乱暴なやり方で農村の環境管理を進めようとしています。実は、習近平がここまで徹底的にやるのにはある理由があります。公式発表では以上の3つを目的としていますが、本当の農管の目的とは何なのでしょうか?2023年4月から始まった新プロジェクトに「穏糧保供」というものがあります。食糧を安定させ、供給の確保するという意味です。つまり農管導入の目的は、食料安全なのです。なぜ食料安全が今そこまで重要視されているかと言うと、一説では中国は戦時体制を敷こうとしていると言われています。中国がウクライナ戦争から得た教訓の一つがいざ戦争になると食品の輸入が困難になることです。普通、農民は付加価値の高い野菜や果物を優先して作ろうとします。中国ではしかし、中央の主導の下でそういった作物を禁止し、お米や小麦やトウモロコシを作らせようとしています。なぜ習近平は戦時体制を取ろうとするのでしょうか?中国の言葉で「天高皇帝遠」というものがあります。意味は、「農村では皇帝の存在が遠く、その影響力は自分には及ばない。」これが中国農村の現状です。独裁者の権力欲は無限大です。権力があればあるほど、権力を欲しがるし、不安になるのです。盤石と言われれば言われるほど、不安になるのです。都会部は管理されていますが、農村部はあまり管理されていません。中国農村は数千年以来、ほとんど自己管理でやってきました。中央の権力が及ばないところだったのです。これが今、習近平を不安にさせているのです。かつて8割ぐらい農民だった中国の人口構成も習近平政権になってから農村の都会化を進め、農民の数を減らしていき、今では全人口の約4割程度になりました。それでもまだ5億人もいます。この5億の農民人口が習近平にとっては安心できない大きな要素なのです。実際、中国の歴史を見てみると、農民一揆が歴代王朝を倒すきっかけになっています。

 中国数千年以来、農村地域は自己管理だったと言いましたが、実は、共産党政権が生まれ一度は管理下に置こうとしました。それが、毛沢東時代の1950年代の「大躍進政策」と人民公社です。全てを国が管理しようとした結果、誰も働かなくなり、2,3年後に3000万人〜5000万人の餓死者を出したと言われています。今回の農管制度の導入は、習近平版の大躍進と言えます。農村は中央が管理してはいけない。これは中国の数千年以来の知恵なんですが、毛沢東はこれに挑戦してやはり失敗しました。今回も同じように失敗するのではないでしょうか。
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