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2024-09-30 08:39

伝統的安保観超える石破構想

鍋嶋 敬三 評論家
 激戦の自民党総裁選挙を制した石破茂氏(67)は10月1日召集の臨時国会で第102代首相に指名され、石破内閣が発足する。連立与党の公明党も石井啓一氏が15年ぶりの交代で代表に就任した。野党第一党・立憲民主党も代表選挙で野田佳彦元首相が代表の座を射止め、主要与野党の党首が同時に交代する異例の展開となった。10月9日に衆院解散、27日投開票の見通しだ。石破政権の重要な政治課題は憲法改正と安全保障政策である。憲法改正は自民党の党是だが国会論議が停滞した。岸田文雄首相が退陣の際、「改憲4項目」の党見解を引き継いで①9条を維持した上で「9条の2」を新設し自衛隊を明記②緊急事態での国会議員の任期延長と緊急政令の導入ーを軸とする「論点整理」を置き土産に、議論が後戻りしないよう歯止めをかけた。石破氏は改憲の時期を「首相在任中」と言明している。

 憲法と密接に絡むのが日米同盟の在り方である。防衛庁長官、防衛相を歴任し安全保障にかける熱意は強烈だ。総裁選の討論会でも持論の「アジア版NATO(北大西洋条約機構)」と憲法の関係を問われた。石破氏は「アジア太平洋地域では、日米、米韓、ANZUS(豪・ニュージーランド・米)条約及びこれに英国を加えた5ヶ国同盟取決めなどを糾合する。一番早いのはANZUSに日本が入るJANZUSは理論的には可能だ」と述べた。また「最初から中国を排除すると念頭に置いているわけではない」と断っているが、これは中国包囲網と受け取られるのを警戒してのこと。本音は米国の保守系シンクタンクのハドソン研究所への寄稿(米時間9月27日)で明らかにされ、総裁選勝利を受け「日本の次期首相」として紹介された。「日本の外交政策の将来」と題して①アジア版NATO の創設②国家安全保障基本法の制定③米英同盟並みに日米同盟を強化の3本柱からなる。

 「今のウクライナは明日のアジア」としてロシアを中国、ウクライナを台湾に置き換え、アジアにはNATOのような集団的自衛体制がないため戦争が勃発しやすい。中国を西側同盟国が抑止するため中国、ロシア、北朝鮮の核連合に対する抑止力確保のため「アジア版NATO」の創設が不可欠であり、そこでも「米国の核シェアや核の持ち込みを具体的に検討せねばならない」と主張した。日本の「非核三原則」との整合性が大きな課題になる。「国家安全保障基本法の制定が不可欠」で、続けて憲法の改正を行うとする。インド太平洋地域では日米豪印の4ヶ国によるQUAD(クアッド)が首脳レベルに引き上げられ、日米、米韓、AUKUS(オーカス=豪英米)など同盟の水平的展開が見られる。日米同盟を中核にハブ・スポークスが成立し、アジア版NATOに発展させることが可能だとする。石破氏は「戦後政治の総決算」として米英同盟並の「対等な国」として日米同盟を強化し、地域の安全保障に貢献することことを目指すという。今や日米安全保障条約を「普通の国」同士の条約に改定する条件は整ったと主張する。

 米国は日本防衛の義務を負い、日本は米国に基地を提供する現在の「非対称双務条約」を改め、日米安保条約と日米地位協定を改定して自衛隊をグアムに駐留させ、日米の抑止力強化を提案した。日本政府の最高指導者が日米安保条約を対等に改定しようという対米提案は初めてであろう。日本の意図について警戒心など米国だけでなくアジアを中心に国際的に大きな波紋を呼ぶだろう。第一に自衛隊に他国を守る実力が備わっているのか。第二に米国との「核共有」は中露朝に対抗する核連合とみなされ、日本の外交地盤であるアジア太平洋諸国に疑念が生じ、中露の世論工作も予想され外交上も大きな影響を及ぼそう。第三に何よりも自衛隊の存在にかかる憲法上に明文規定がなければ、何も進まないことは明らかだ。石破氏の「挑発的論文」は安全保障論議に一石を投じたが、世界的な視野に立つ冷静な議論が必要であろう。
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