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2025-01-06 13:48

共産党の<戦争の準備ではなく平和の準備を>で日本を守れるか?

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 日本共産党は、自民党岸田政権が2022年12月に日本の防衛力を抜本的に強化する「安保3文書」を策定し、これに基づく長射程ミサイルなどの「反撃能力」(敵基地攻撃能力)保有や「防衛費GDP比2パーセント=5年43兆円」という新たな防衛政策に着手して以来、たびたび、機関紙『赤旗』で絶対反対を主張し、<戦争の準備ではなく、平和の準備をせよ>との大宣伝活動を行っている。石破新政権に対しても同じである。その理由は、「自民党政権による米国追従の軍事力強化は中国、北朝鮮、ロシアを刺激して「軍事対軍事」の悪循環に陥り、戦争の危険性を増大させるだけだ。したがって、日本は軍事力の強化ではなく、戦力不保持・戦争放棄の憲法9条に基づき、東南アジア諸国連合を中心とする「平和外交」を強力に推進すべきであり、<戦争の準備ではなく平和の準備をせよ>」(『赤旗』2024年12月16日、12月28日など)というものである。

 共産党の「軍事力強化絶対反対」の背景には、共産党が党綱領で規定する「自衛隊違憲解消」と「日米安保条約破棄」のイデオロギーがある。すなわち、自衛隊は戦力不保持の憲法9条に違反し、安保法制に基づく「集団的自衛権」も米国の戦争に加担し巻き込まれるから戦争放棄の憲法9条に違反する。自衛隊を縮小し、日米安保を破棄し、「平和外交」に徹すれば、日本は米国の戦争に巻き込まれず、他国から侵略されることもない、というのである。共産党の主張は破綻した旧日本社会党の「非武装中立論」に近いと言えよう。このような共産党のイデオロギーの根底には、侵略戦争はすべて資本家が利潤獲得のために行うのであり、労働者階級は資本家による侵略戦争の犠牲者である、とのレーニンの思想がある。レーニンは「資本家は世界を資本に応じ、力に応じて分割する。金融資本は植民地略奪の熱望を強める」(レーニン著『帝国主義論』レーニン全集22巻大月書店293頁、303頁)と言っている。戦前における共産党の「侵略戦争反対」はこのようなイデオロギーによるのであり、現在の「軍事力強化絶対反対」も基本的には変わらないと言えよう。

 自民党岸田政権が2022年12月に防衛力抜本的強化の方針を策定したのは、2022年2月のロシアによる国際法違反のウクライナ侵略が最大の要因であり、米国の指示命令によるものではない。なぜなら、野党の立憲民主党もロシアによるウクライナ侵略を契機とする日本の防衛力強化には基本的に賛成しているからである。仮に、ウクライナ侵略がなければ「安保3文書」の策定も「防衛費43兆円」もなかった公算が大きい。これに加え、中国習近平政権は「核恫喝」による「戦わずに勝つ」孫子の戦略に基づき、核戦力を中心とする大軍拡を進めており、台湾の「武力統一」を否定せず、尖閣諸島の領有権を主張し領海侵入を繰り返している。また、北朝鮮も核ミサイル開発を加速し、ウクライナ戦争への参戦などロシアとの軍事同盟関係を強化している。日本にとって両国の脅威も増大しているのである。このような日本を取り巻く安全保障環境の悪化を考えれば、与党として国家と国民の安全に全責任を持つ自民党政権が防衛力の抜本的強化に取り組むことが不合理とは言えまい。ウクライナ侵略後の世論調査を見ても防衛力強化については反対よりも賛成が多い。そうだとすれば、自民党政権による防衛力抜本的強化は、共産党が主張する「戦争の準備」ではなく「戦争をさせないための準備」すなわち抑止力強化のためと正当に評価されるべきである。まさに『備えあれば憂いなし』である。

 安全保障は「外交と軍事」が車の両輪であり、外交だけで平和と安全を守ることは困難である。このことはこれまでの世界の歴史が証明している事実である。外交だけでは平和と安全を確保できないからこそ、世界各国は多大な人的物的負担をしても軍事力を保持しているのである。にもかかわらず、共産党は車の両輪である軍事力を無視ないし軽視し、あたかも外交だけで平和と安全が確保できるかのごとき幻想を国民に振りまき、全く非現実的な主張をしているのであり、日本を亡ぼす極めて危険な「空想的平和主義」と言わざるを得ない。今回のロシアによるウクライナ侵略を見ても、1991年のソ連崩壊後ウクライナには大量の核兵器が残され世界3位の核保有国であったが、ウクライナの安全を保障する1994年12月の米英ロが署名した「ブタペスト覚書」をウクライナ側が信じてすべての核兵器を放棄したからこそ、クリミア半島を含めロシアによる侵略を受けたことは明らかである。なぜなら、ロシアにとっても世界3位の核保有国であるウクライナに侵攻すれば、最終的には核兵器による反撃を覚悟せざるを得ず、核戦争になる危険性を排除できないからである。クリントン米国元大統領もウクライナの核放棄がロシアによる侵略の原因となったことを認めているのである(ニューズウイーク日本版2023年4月6日)。以上の事実は、通常戦力および核戦力による抑止力の重要性を証明しており、共産党の<戦争の準備ではなく平和の準備をせよ>との主張は、抑止力の重要性を全く無視する危険極まる主張であり、日本を守れないことは明らかである。さらに、仮に、共産党が主張する通り、日本が防衛力・抑止力の強化をしなくても、そのために中国、北朝鮮、ロシアが軍拡をしない保証は全くない。なぜなら、これらの国は日本のみならず米国を仮想敵国としているからである。
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