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2025-06-19 15:32

ベトナム戦争終結から50年、今、世界は?

舛添 要一 国際政治学者
 4月30日、ベトナム戦争終結から50年である。この戦争について振りかえり、その意味を考えてみたい。さらには、当時と今日との比較から見えてくる思想状況の変遷にも焦点を当てたい。第二次世界大戦後の世界は、米ソ冷戦へと進んで行く。ヨーロッパでは、1948年4月にベルリンが封鎖され、1949年4月にNATO(北大西洋条約機構)が発足する。アジアでは、1949年10月1日に中華人民共和国が誕生する。さらに、1950年6月25日に朝鮮戦争が勃発する。東西冷戦は、朝鮮半島、そしてドイツに分断国家を生むことになったが、植民地の独立にも影を投げかけ、同様な事態が起こった。
 
 インドシナ半島のベトナムでは、ホー・チミンが舵を取る社会主義のベトナム民主共和国はフランスと戦火を交えた(独立戦争、第一次インドシナ戦争)。1954年5月のディエンビエンフーの戦いでフランスは敗れ、7月にジュネーブ協定が締結され、フランスはベトナムから撤退した。そして、17度線を境に南北二つの国、ベトナム民主共和国(北ベトナム)とベトナム国(南ベトナム)が誕生した。北ベトナムの攻勢に対抗して、アメリカは南ベトナムを支援するが、1962年2月にはベトナム戦争に引きずり込まれていく。ベトナム戦争に対して、反対の声が世界中で高まり、とくに若い世代が声をあげた。キャンパスでの抗議活動は、大学改革への導火線の一つにもなった。1968年5月、フランスで学生の反乱、5月革命が起こった。日本でも、アメリカでも、先進民主主義国で学園紛争の嵐が吹き荒れた。1968年当時の若者の運動に共通していたのは、授業料値下げといった物質的な要求ではなく、意思決定過程への参加要求のような脱物質的な要求であった。

 軍事外交の面でも、アメリカの核の傘の下に安住し、自らの戦略を立案する必要もなければ、その気もなかった。すべて、アメリカ追随で事足りたのである。しかし、アメリカ第一主義をさらに強化する第二次トランプ政権の下で、ヨーロッパもアメリカに依存しない軍事力の保持を検討し始めた。日本も同様な準備が必要であろう。ベトナム戦争は、第二次世界大戦後にアメリカの力を軸に構築された国際システムを大きく揺るがせることになった。戦後の通貨制度については、米ドルを基軸通貨とし、1オンス=35ドルで金と兌換できること、為替相場を固定すること(たとえば、1ドル=360円)が決められた(ブレトンウッズ体制)。しかし、ベトナム戦争によってアメリカの財政が危機的な状況に陥り、もはやこの制度を維持することは不可能となった。

 双子の赤字に対応するため、1971年8月15日、ニクソン大統領は、金とドルの兌換を停止し、ドルの価値を下げ、変動相場制に移行した。これをニクソンショックという。このとき、ニクソンは全ての輸入品に10%の課徴金を課している。その1ヶ月前の7月15日、ニクソンは北京を訪問することを電撃的に発表した。1972年2月には、ニクソンが訪中し、米中共同コミュニケを発表し、敵対関係に終止符を打った。トランプ大統領が、ウクライナやウヨーロッパの頭越しに、プーチン大統領と和平を進めようとしている姿勢に似ているとも言えよう。以上のように、ベトナム戦争は、第二次世界大戦後のアメリカ主導の国際秩序を大きく転換させることになったのである。
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