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2025-07-15 14:40

イスラエル・イランの停戦で中東は安定するのか、イランとアメリカの核協議は進展するか。

舛添 要一 国際政治学者
 6月13日にイスラエルはイランの核施設などを奇襲攻撃した。イランもイスラエルに報復攻撃を行った。そして、22日には、米軍がイランの核施設を攻撃し、バンカーバスターなどによって地下施設も標的にした。そして、25日には両国間で停戦が実行に移された。停戦合意が着実に守られるかどうかを注視する必要があるが、今回の戦争がもたらした中東における変化を読んでみたい。第一は、この地域の大国、イランの弱体化である。イランは、イスラエルとアメリカの攻撃によって、軍事的に大きな打撃を受けた。兵器や軍事施設のみならず、司令官や核関連の科学者が殺害されるなど、人的被害も大きかった。

 イランの弱体化は、中東のパワーバランスを大きく変化させることになる。米軍による核施設攻撃への報復として、イランはカタールにある米軍基地を攻撃した。その攻撃は、事前にアメリカ側に通告されており、被害を最小限にする措置が講じられた。イラン政府にとっては、国内世論向けの報復パフォーマンスだった。しかし、攻撃されたカタールにとっては不愉快な反撃であり、穏健な湾岸諸国はイランに対する不信感を抱き続けている。2020年8月、トランプ大統領の仲介で、イスラエルはアラブ首長国連邦(UAE)と国交を正常化した。これをアブラハム合意と呼ぶ。イスラエルは、1979年にエジプトと、1994年にヨルダンと国交を正常化している。9月にはバーレーン、10月にはスーダン、12月にはモロッコがイスラエルと平和条約を締結し、国交を正常化した。これも含めて、アブラハム合意と呼ぶことがある。これらの国は、イスラエルよりもイランのほうを脅威に感じていると言ってもよい。

 トランプによれば、近くイランと協議を再開するという。アメリカとイランの核協議は、トランプ政権になってから、4月12日にオマーン、4月19日にローマ、4月26日にオマーン、5月11日にオマーンで協議が行われた。そして、6月15日にはオマーンで第5回目の協議が行われる予定であったが、今回のイスラエルの攻撃を受けて、中止になったのである。これまでの協議では、アメリカは、イランがウラン濃縮を完全に停止することを求めたのに対して、イランはそれに反対してきた。その両者の主張は、今も変わらない。2015年7月、米英独仏中露6カ国とイランが、イランの核開発の制限と経済制裁の解除を決めた核合意をまとめ上げた。具体的には、核兵器を作れないように、ウランの濃縮度の上限を3.67%とし、貯蔵量は300キログラム未満とした。濃縮度3〜5%のものが原子力発電の燃料として使われ、核兵器には濃縮度90%以上のウランが必要である。

 ところが、5月31日のIAEA(国際原子力機関)の報告書によると、イランが濃縮度60%に高めたウランの生産を加速させ、貯蔵量が400㎏以上になっている。60%から90%にまで高めるのは容易である。2月には、274.8㎏だったのが、5月17日には408.6㎏になっており、核爆弾9個を製造できる量である。6月12日には、IAEA理事会は、IAEAへの調査への協力が不十分だとしてイランを非難する決議案を採択したが、この非難決議を大義名分に、イスラエルは攻撃に踏み切ったのである。今後の米・イラン間の核協議では、主張は平行線を辿るであろうし、軟着陸できるかどうかは不明である。
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