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2025-10-14 16:17

共産党宣伝「搾取論」の重大矛盾

加藤 成一 外交評論家(元弁護士)
 日本共産党は最近志位議長を中心とするマルクス「資本論」の大宣伝活動を展開している。
志位議長は【いま資本論がおもしろい】(赤本)を出版し、青年、学生、労働者、民青同盟員、青年党員、労働組合員らに対し、マルクス「資本論」を引用し、資本主義社会における貧困や差別の原因はすべての労働者が資本家から労働力を「搾取」されているからだと主張し、「利潤第一主義」の資本主義を変革し、生産手段を国有化・社会化して「搾取のない」社会主義・共産主義社会を実現すべきであると宣伝している(「赤旗」2025年10月14日など)。そして、社会主義・共産主義社会では、「搾取」が無くなるから労働時間が画期的に短縮され、自由な時間が増え、人間性が回復されると主張している。さらに共産党は、資本主義の「利潤第一主義」による資源の乱開発が気候変動の原因であると主張している。共産党がマルクス「資本論」の搾取論を宣伝する目的は、若者の党員を増やし、党員の高齢化による党勢衰退を阻止し、党勢拡大を図る狙いがある。
 
 マルクス「資本論」によれば、すべての商品の価値の源泉は労働力であるから、商品の価値はその商品の生産に投下された労働力の量すなわち労働時間によって決定される(価値法則=「資本論」第一巻向坂逸郎訳50~51頁岩波書店)。労働力と言う特殊な商品は自己の価値(賃金)以上の剰余価値(利潤)を生み出す性質を有する。例えば、労働時間が8時間とすれば、労働力の価値である賃金(生活費)を生み出す必要労働時間は4時間に過ぎずあとの4時間は利潤を生み出す剰余労働時間であり、労働力と言う商品を購入した資本家が取得する(剰余価値法則=同書271頁、280頁)。資本家は資本主義経済の根本法則である「価値法則」に基づき労働力という商品の価値である賃金(生活費)を労働者に支払っているから、剰余労働時間が生み出す剰余価値(利潤)を取得しても「価値法則」に違反せず、労働契約上も「合法」である。ところが共産党は資本家によるこの剰余価値の取得を「搾取」と主張するのである。
 
 共産党の主張によれば、資本家による剰余労働時間(剰余価値)の取得は「搾取」であり許されないから、8時間労働の内、賃金(生活費)を生み出す必要労働時間を超えた残りの4時間の利潤を生み出す剰余労働時間の全部または大部分に対しても「賃金」を支払え、ということになる。然し、仮に共産党が主張する通りに資本家が剰余労働時間を含む8時間労働の全部または大部分に対して労働者に賃金を支払えば、企業経営が成り立たないことは明らかである。なぜなら、資本家は生産のための原材料費、機械設備、減価償却費、工場・事務所の賃料、電気ガス水道の光熱費、法人税、地方税、従業員の福利厚生費、社会保険料、などの諸経費を全部負担しているからである。このように資本家が負担する諸経費を無視し、剰余労働時間の全部または大部分に対しても賃金が支払われるならば、労働力を含む商品の価値(賃金)はその商品(生活費)を生産するための労働力の量すなわち労働時間によって決定されるというマルクスの「価値法則」に違反し「価値法則」は破綻する。ここに共産党宣伝「搾取論」の重大な矛盾がある。
 
 したがって、共産党の主張は資本主義経済の根本法則であるマルクスの「価値法則」にも違反し、自己矛盾も甚だしい。加えて、生産手段国有の旧ソ連や中国の社会主義国家においても、賃金として支払われるのは労働者の生活費を生産するための必要労働時間部分のみであり、剰余労働時間部分(剰余価値)は賃金として労働者に支払われず、すべて国有企業が取得する。なぜなら、社会主義国有企業においても、上記資本主義私企業と同様の諸経費を負担するからである。しかし、共産党の主張によれば、社会主義国有企業による剰余労働時間(剰余価値)の取得も「搾取」に他ならない。なお、共産党は資本主義の「利潤第一主義」による資源乱開発で気候変動が生じ、社会主義になれば気候変動は生じないと主張するが、生産手段国有の社会主義国家である中国による温室効果ガスの排出量が世界一であり、最悪であることを日本共産党はどのように説明するのか。
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