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2025-10-18 12:49

(連載1)ガザ地区の戦争集結は今後どうなるのか

宇田川 敬介 作家・ジャーナリスト
 「ガザ地区の戦争集結は今後どうなるのか」として、10月10日のイスラエル=ハマス戦争の停戦について見てみたい。第一段階の停戦合意は、2025年10月9日にイスラエルとハマスがガザ地区で合意文書に署名し、同日正午(現地時間)から停戦を発効させることで成立しました。合意の核心は、ハマスが2023年10月の襲撃で拉致した約42人の生存者を解放し、拘束中に死亡した20人余りの遺体を返還すること、そしてイスラエル軍が合意ラインまで部隊を撤退させることにありました。この「第1段階」は、2年に及ぶ激しい戦闘の終結に向けた大きな一歩と位置付けられました。

 交渉は米国とカタールの仲介で進められ、合意直前まで両者は人質解放の条件と部隊撤退範囲を巡り詰めの交渉を重ねてきました。停戦合意案の概要が明らかになると、ドナルド・トランプ元米大統領が自身のSNSに「イスラエルとハマスの双方がわれわれの和平計画の第1段階に署名したことを誇りを持って発表する」「すべての人質が間もなく解放され、イスラエルが合意されたラインまで部隊を撤退させることを意味する。強固で永続的な平和への第一歩になる」と投稿し、大きな注目を集めました。10月9日朝、テルアビブの広場では人質の帰還を待ち望む家族や市民が静かに集まり始め、メディアは「これまで最も人道に配慮した停戦合意」になる可能性を報じました。同日午後にはイスラエルの安全保障会議が緊急招集され、午後5時からの閣僚会合で合意の正式承認手続きが行われました。イスラエル側が撤退地点の地図を提示し、ハマス側が解放対象リストを確認する場面がテレビ中継されるなど、交渉の舞台裏が初めて公開された瞬間でもありました。

 合意発効後、ハマス側は解放準備のために医療施設へ人質を移送する作業を開始。ガザ北部ハンユニスの支援センターには人質受け取りを待つ医療スタッフや国連関係者が詰めかけ、一方で市民からは「家族が帰ってくる」と喜びの声が上がりました。その夜、エレズ検問所近くでは、パレスチナ側とイスラエル側の交渉担当者が非公式に硬い握手を交わし、現地にわずかながら平穏な空気が戻ったとの証言もあります。ブレア元首相は中東和平の「カルテット(国連、米国、EU、ロシア)」特別代表として、長年築いたエルサレムやアンマン、カイロの主要人脈を駆使し、停戦交渉の舞台裏を支えました。彼が介入した背景には、米欧両陣営の立場を橋渡しし、米国一辺倒とみられがちな調停にバランスを持たせる必要があったことがあります。また、EU諸国が抱える対イスラエルの批判的感情を和らげつつ、ハマス側にも「敵国ではない」というメッセージを伝えることで、交渉の土壌を整える役割を果たしました。ブレア氏の静かなシャトル外交は、現地の王侯や閣僚との“裏ルート”をつなぎ、表舞台での強硬姿勢と並行して「停戦は双方の安全保障にも資する」と説得を重ねる戦略的な動きでした。

 トランプ大統領は自身が提唱した「中東平和プラン」の延長線上として今回の停戦を位置付け、SNS(トゥルース・ソーシャル)を通じて一貫して両者への圧力をかけ続けました。4日に「イスラエルは初期撤退ラインに同意した。ハマスがこれを確認すれば即時停戦が発効する」と投稿し、事実上のデッドラインを突き付けたことで交渉を加速させました。さらに8日には「イスラエルとハマスの双方が第1段階の和平計画に署名したことを誇りに思う。これが強固で永続的な平和への第一歩だ」と自らの功績を強調し、当事者双方に合意を履行させる心理的な追い風を吹き込みました。(つづく)
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