国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2008-01-15 09:24

自虐スパイラルはもういい

杉浦正章  政治評論家
 経済評論家らによる誤判断のデフレ・スパイラルが終わったと思ったら、今度は「自虐スパイラル」の様相である。新年半月の論調を見聞きしていると、日本はもはや断末魔の様相である。この作られつつあるムードは、捨てておくと国民に心理的な不安感を巻き起こし、政治、経済、文化すべての面で沈滞ムードにさらされる。影響力の強い朝日新聞が「外から押し寄せる脅威より前に、中から崩壊してしまわないか」と社説に書けば、毎日も「日本は衰退の気分が広がり・・」と暗い。政治家も負けてはいない。元首相中曽根康弘も「日本は明らかに転落しつつある。どん底に入りつつある」とこれ以上ない表現で激しい。総じて株価の低迷、人口減少、一人当たりGDPの下位転落、国の借金など現状のマイナス要素を背景にした論調だ。「昭和はよかった」という溜息のような論調もある。

 思い出すのは11年前のデフレ論議である。小生は当時このデフレは「よいデフレ」ではないかと直感した。経済のグローバル化に伴う安価な輸入財の国内流入や、生産性上昇という主に「実態経済」に起因していると思ったからだ。しかし日経新聞をはじめ経済評論家の多くが「日本はデフレ・スパイラルにはまって、底知れず落ち込む。経済は崩壊、30年は立ち直れない」と予言していた。回復に50年かかると言った評論家もいた。どうなったか、景気は6年前から好転、史上最長を更新し、デフレ終息のポイント「名実逆転」が視野に入った。思えばデフレ・スパイラルの主張は極めて「狼少年」的であった。今回の〝自虐スパイラル〟も、実体にマッチしないで、ムードだけが先行している観が濃厚である。

 国民性というか、日本は青白きインテリが多すぎるというか。米国の「三つ子の赤字」はある試算によると3000兆円に達するという。日本の3倍である。大統領選は景気・経済対策が最大の焦点となっているが、大統領候補からは、国家が潰れるような演説は全く聞かれない。個人の借金にしても米国は2万ドル程度の借金で破産宣告するケースが多いが、日本は200万円で一家心中である。サブプライム・ローン問題は、米国に発症し、米欧に深刻な打撃をもたらしているが、米欧に比べれば軽微な「被害」にとどまっているのにもかかわらず、まるで日本が主役のような論調がある。株価の低迷にしても、官房長官町村信孝が言っているとおり「どう見ても、これが日本経済の実体と関係がないなという印象」なのである。内外の「株屋」の思惑に翻弄されすぎているのだ。投機のもたらす変動には、もう少し「すれっからし」になってよい。GDP下位転落もデフレが原因の一つだろう。

 中国脅威論も盛んだが、中国が突然出現した「米国を上回る輸出相手国」であることはとんと忘れている。一衣帯水、地の利も良い。中国経済の上昇は、オリンピックを通り越して2010年5月の上海万国博までは続くと見られており、まだまだ中国特需は続く。神風的なチャンスでもある。昨年日本を覆った「偽」旋風にしても、何も「末世」と嘆くことでもない。年金、賞味期限、防衛疑惑のいずれをとっても、昭和以来の「負の遺産」であり、今になってようやくそれを摘発する判断力、能力がついたことに他ならない。物事は前向きに考えることだ。凶悪事件も諸外国に比較してみることだ。国民生活も、作家曾野綾子が「どこまで恵まれれば気が済むのか」と問いかけているが、その通りだ。日本のように安全で住みやすく、医療水準の高い国も珍しい。 

 るる述べてきたが、自虐史観は次の一言で潰れる。日本の長寿は世界一であり、健康長寿も世界一だ。長寿は政治、経済、社会、文化による「総合芸術」であり、外国の友人がまず羨ましがるのが、日本の長寿だ。日本食が世界中でブームとなっているのも、長寿に起因している。要するに、世界に類を見ない日本人独特のペシミズムに陥って、大きな目標を見落としてはならない。アジアの市場は活気を呈しており、日本の独占的優位は否めない。環境技術で圧倒的に先行する日本の地位も揺るがない。考えようによっては、チャンスは無限にある。政治家も自虐史観の追及に、防戦一方にならず、前向きの展望を示さなくてはならない。昭和などはよい時代ではなかった。ノスタルジアにすぎない。
 
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム