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2008-03-06 13:06

米大統領選挙と核軍縮

堂之脇光朗  日本紛争予防センター理事長
 昨年1月5日、キッシンジャー、ナン、ペリー、シュルツ4氏はウォール・ストリート・ジャーナル紙上で米国は核兵器全廃に向けての大胆なイニシアティブをとるべしと論じて世界を驚かせた。米国では核軍縮推進論はいわば民主党の専売特許であり、ブッシュ現政権は前政権が署名したCTBT(包括的核実験禁止条約)の批准を拒否するなど核軍縮に後ろ向きの姿勢を示してきた。ところが共和党の国務長官経験者であるキッシンジャー、シュルツ両氏が民主党のナン、ペリー両氏と連名で核兵器廃絶を訴えたからである。

 この提案へのブッシュ政権の反応を米政府関係者に確かめたところ、米国は2001年の核政策レビュー以来核兵器への依存を減らす政策をすでに採用しており、新しい核兵器の開発も行っていないと答えたことは以前本欄(2007年9月7日付け投稿396号)でも紹介した。確かに米国の核兵器削減は進んでおり、昨年12月の発表では2012年までに核兵器保有数を2004年の半分にするとの目標は予定よりも5年も早く達成され、さらに15%削減するので、2012年までには冷戦終了時の25%以下になるとのことである。

 しかし、このような最近の趨勢はブッシュ政権の発意によるというよりも、共和党が上院で過半数を失った結果の政権移行期現象であるようにも思われる。たとえば、昨年暮れに米議会で成立した2008年度国防関連予算によれば新規核弾頭関連の予算はほぼ全面的に削られた反面、大統領は6ヶ月以内に核兵器用物質の安全を世界的に確保する計画を上院に提出すべしとするオバマ上院議員などによる修正提案は必要な予算とともに承認されたからである(Arms Control Today昨年11月号、本年1月号など参照)。

 このような状況の中で、本年1月15日にキッシンジャー、ナン、ペリー、シュルツ4氏は再びウォール・ストリート・ジャーナル紙上で核兵器廃絶を訴えた。1年前の提言を再確認する内容の論説であるが、掲げられた8項目ほどの当面の具体策は1年前のそれと多くは重複するものの同一とはいいがたい。それでもCTBT批准の必要性を再度強調していることが注目に値する。米政府がいかに核兵器への依存を減らす方針であると説明しても、核実験の可能性を残す必要があるのでCTBTの批准はできないということでは説得力に乏しく、インド、パキスタン等の諸国からも足元を見られてしまうからである。

 CTBTは、今年に入ってからマレーシア、コロンビアが批准したことにより、発効要件国44国のうち未批准国の数はついに一桁台の9国にまで減少した。米国も批准することになれば、インド、パキスタンなどの他の未批准国への圧力は絶大なものとなるであろう。もちろん、米国の上院が以前の議決を覆して3分の2以上の多数の賛成により条約を批准するのは決して容易なことはでないが、キッシンジャー、シュルツ両氏が賛成となった以上は、一部の共和党上院議員が賛成にまわる可能性も出てきたということであろう。

 そうは言っても、米国の政権交代による核軍縮の進展に過度の期待を抱くのは禁物である。ヘンリー・スティムソン・センターのブライアン・フィンレー氏が1月下旬の論文「ゼロの限界」で論じたように、クリントン前政権の核軍縮政策は数々の障害や抵抗により屈辱的な挫折を余儀なくされたが、同様な失敗が繰り返されない保証はないからである。
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