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2008-04-04 10:17

マッカーサー元帥の“泣きどころ”をつかんだケナン

奈須田敬  並木書房取締役会長・月刊「ざっくばらん」編集長
 本欄への前回1月18日付けの投稿「ケナンとマッカーサー:対立から同志的関係へ」(513号)で、私は、ケナンが占領軍のカリスマでもあったマッカーサー元帥と直談し、占領政策是正にあたっての米国務省の基本的考え方を縷々説明し、ついにマッカーサーを理解、納得させ、意気揚々と本国へ戻るところまでの概略を記した。あの「傲慢不遜」で、大統領の命令に対しても「テコでもうごかない」マッカーサーを、国務省の一官僚(政策企画室長)にすぎないケナンが、なぜ説得できたか。奇跡というほかないが、一つ言えることは、要するにマッカーサーの「泣きどころ」を、ケナンは要所要所で「殺し文句」を使って抑え込んだ、ということではなかったか。

 より簡単にいえば、マッカーサーの反ソ・反共産主義の急所をつかんだ、といった方がわかりやすい。おそらく、そのコツをケナンの耳に叩き込んだのは、マッカーサーの腹心の部下であったウィロビー少将(情報部長)であろう(ウィロビーについては、すでに記した(2007年10月19日付投稿))。『回顧録』の中でケナンは、ウィロビーとの出会いと、長時間の歓談で「肝胆照らす仲」になったことを、次のように楽しく回想している。

 ≪要約(注:マッカーサーの御託宣)を聞いた日の翌日の夕方、私はホテルの部屋でチャールズ・A・ウィロビー少将の訪問を受けた。ウィロビーは、マッカーサー元帥幕僚第二部長として、元帥の有力な幕僚の一人であった。私たちはその夜は愉快な時間を過ごし、多くのことを語り合った。少将は、ソビエト連邦に関心を抱いていた。ソビエトの復興の進展ぶりや、ソビエトの戦後外交政策の発展などに対する関心であった。少将は私に、翌日からSCAP(注:占領軍総司令部)の高級将校の集まりで講演をしてくれと要請した。その要請に私は快く応じた≫。

 この講演の成果は予想以上であった。

 ≪一両日後、私は単独でマッカーサー元帥から招かれて、夜の長い会見をすることとなった。私たち二人は、占領と平和条約に影響する事柄で、われわれの旧同盟諸国に関係ある問題をはじめとして、占領政策の主要問題のすべてについて、何一つの例外もなく、話し合った。元帥は自分の見解を自由に話したし、私にも同じように話すように言ってくれた。元帥自身は、すでに私たちの目にもそれとわかる、いくつかの危険について、知らないわけではなかったし、また元帥が、私たちに劣らず、多くの占領政策の変更と修正が必要であることを感じていたことを、私は理解することができた。元帥が特に恐れていることは、このような変更が、いつでも極東委員会(注:戦勝国代表によって構成されている)に代表を出している同盟諸国から反対を受けるに決まっていることであった。この点について、私は元帥にいくつかの提案を行った。それは元帥には初めてのものであり、元帥は自分が考えていた障害を克服することができることを、それで知ったのである≫。

 高級将校たちのための講演会に出席はしなかったが、ちゃんとウィロビーの報告を聞いていたマッカーサーは、矢も楯もたまらず、ケナンとの「夜の長い会見」を望んだのである。≪以上の論理が元帥を大いに喜ばせたようであった。元帥は膝を叩いてうなずいたほどであった。元帥と私とは、ついに心と心が結びあうことができたという、共通の思いを抱いて別れたのである≫。そして、ケナンは、それの結びに、≪この瞬間から、万事が好転した≫と記している。ケナンにとって外交官生活における「生涯最高のとき」でもあったようだ。それは、誇張ではない。『回顧録』に、 ≪・・・そして、私はこの(占領政策の)変革をもたらした私の役割は、マーシャル・プラン以後私が政治上に果たすことができた最も有意義な、建設的な寄与であったと考えている≫と書いている。
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