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2008-05-14 14:37

日本離れ進むASEAN

鍋嶋敬三  評論家
 日本が政府開発援助(ODA)や貿易、投資などを通じて緊密な関係を築いてきたはずの東南アジア諸国連合(ASEAN)に日本離れと中国への傾斜が強まる傾向がはっきりしてきた。日本政府は日中首脳会談を踏まえてアジア外交を立て直す必要がある。外務省は2008年2月から3月にかけてASEAN主要6カ国で実施した対日世論調査の結果を5月初めに公表した。ASEANが現在重要なパートナーと考える国は、中国が第1位で30%、日本は28%で第2位、米国が23%で第3位だ。今後重要なパートナーとして中国が33%と伸びるのに対し、日本は23%と落ち込み、その差は2ポイントから10ポイントへ拡大した。経済発展著しい中国が、ASEANとの相互依存関係をますます深め、政治的な影響力がさらに強まることを示唆している。

 「最も重要な相手は日本」とするインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国(第1グループ)に対し、「中国」とするシンガポール、マレーシア、タイの3カ国(第2グループ)に二極分化しているのが特徴的だが、日本については6カ国そろってポイントを下げているのだ。中国の存在感がさらに大きくなる半面、日本の影が薄くなるのを放置してはならない。インドは現在、ASEANにとって微々たる存在で第7位だが、今後となると第4位に躍進する。シンガポールでは、中国に次いで重要な相手になるという数字もある。情報技術を中心とする知識産業の面で共通項があるためだろうが、興隆するインドがASEANにとって将来大きな存在になることを予感させる。

 ASEAN地域において日本に最も貢献してほしい分野では、経済・技術協力が高得点で第1位、次いで貿易・民間投資の振興は当然だろう。注目すべきは第3位の平和の維持で、インドネシアなど第1グループから比較的高い支持(39%~52%)を受けたのに対し、シンガポールなどの第2グループ(13%~14%)はその3分の1にとどまり、ここでも二極分化がはっきり見て取れる。日本を中国よりも重要なパートナーとみなしていない第2グループは、平和維持への貢献でも日本に期待していない。この結果をどう読めばよいのか。第2グループは中国と地続きだが、いずれもマラッカ海峡からインド洋へ通じる海上交通路に面する国々で、日本の安全保障に深い関わりがある。日本の平和維持への貢献について、政府はASEANの理解を深める努力が必要だ。

 福田康夫首相と胡錦涛国家主席との日中首脳会談(5月7日)で「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する共同声明が署名され、北東アジアの平和と安定の維持、東アジア地域協力の推進を軸とするアジア太平洋への貢献をうたった。胡主席は記者会見で「ASEAN+3(日中韓)などの協力メカニズムを着実に推進して、東アジアの地域協力をより深い段階に推し進めたい」と主導権確保に積極姿勢を表明した。主席訪日に合わせるように来日したオーストラリアのスミス外相は、町村信孝官房長官、高村正彦外相との個別会談で、日中首脳会談について相次いで質問、関心の高さを示した。今後の日中関係の展開がアジア太平洋地域の情勢全般に相当な影響を及ぼすとの見通しに立ってのことであろう。
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