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2008-05-16 13:25

核廃絶と現実主義

堂之脇光朗  日本紛争予防センター理事長
 本年4月17日の坂本正弘氏の投稿「現実主義者としての核廃絶論」には大いに意を強くした。私は昨年9月7日の投稿「核軍縮への高まる期待」の中でアメリカは核兵器への依存度を減らす方針であることが明確になってきたと論じたが、それを裏付ける話が紹介されていたからである。冷戦時代を通じて核兵器は小型の戦場核であっても周辺都市などへの大量破壊力(カウンター・バリュー)が大きすぎて戦力破壊力(カウンター・フォース)としては使い難く、唯一の使い途は核攻撃への抑止力としてだけであるとされてきた。それも、米ソのような拮抗する核兵器国間の奇襲第一撃に対する第二撃報復力としての有用性であった。

 冷戦が終了したのでこのような米ソ間の二極対立構造は消滅した。しかも、米国はトマホークなどの精密誘導兵器での圧倒的優位を確立した結果、たいがいの国の戦闘能力を通常兵器で殲滅できるほどになった。このような通常兵器抑止力の有用性は早くも1996年のキャンベラ核廃絶委員会報告書が指摘していたが、米国の同盟国が必要としている「核の傘」も実はこの圧倒的な軍事力にほかならず、核兵器の抑止力である必要はない。それでも、9.11事件の後、ブッシュ政権は地中貫通型核爆弾などの通常兵器には期待できない有用性を核兵器に求めて研究開発を試みたが、最近ではこれも沙汰止みとなり、新Triad政策のもとで核兵器への依存度を下げる努力をしているのが現状のようである。

 問題はアメリカ以外の核兵器国であるが、坂本氏も指摘するようにロシアや中国は核兵器の保有に固執するであろう。それでも、アメリカは形の上では同国と拮抗する核大国であるロシアとの間での誤解や手違いによる核使用の防止に全力を尽くすべきであろう。また、中国との間では同国が一貫して主張してきた核兵器国間の先制不使用の話し合いに応ずるべきであろう。わが国を含めアメリカの同盟国がこれに懸念を抱く理由は以前とは違って乏しくなっており、この問題では日米の緊密な協議、連携が必要となろう。以上のように、核廃絶のためには先ずは核兵器諸国が核兵器は必要のない使えない兵器であると認識し、依存度を減らすことから始めるのが着実な方法である。核廃絶といっても実際問題としては可能なかぎりの数量的削減と厳重な管理により核兵器使用の可能性をほぼゼロとすることが目標となる。それでも、一朝一夕に達成できることではなく、検証を伴う複雑で困難なプロセスを要することは専門家たちが指摘しているとおりである。

 以上とは別にテロリストなどの非国家主体による核使用の危険性の増大が大問題である。シュルツ、キッシンジャー等4氏の論文も指摘したようにテロリストたちは抑止理論の枠外の相手である。幸い、高濃縮ウランやプルトニウムの製造能力は十指に満たない国にしか存在しないので、それらの国からテロリストたちが入手できないようにするのが第一である。そのための真剣な努力は世界規模で現に進められているところである。それでも、テロリストたちが核兵器物質をすでに入手している可能性は絶無ではないかもしれない。4月15日に米議会の上院でハーバード大学のアッシュトン・カーター元国防次官補が「核テロの翌日」と題して大都市での10キロトン級核爆発が現実となった場合の対応策につき証言したが、このような危機管理体制の整備も不可欠である。
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