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2008-09-22 10:37

理解の域を超えたペーリンの米副大統領候補指名

入山映  サイバー大学客員教授・(財)国際開発センター研究顧問
 共和党大会に先駆けてマッケインが副大統領候補を指名した時、アメリカの反応は一様に「ペイリンって誰?」(Palin, who?)だった。ペイリンなのかポリンなのかも判然としなかった。とりあえず受諾の演説は無難にこなし、ヒラリーへの一通りの讃辞も怠らなかったことから、どうやら民主党のヒラリー票を中心に女性票を当て込んでいるのでは、という観測が浮上した。アラスカっ子でミス・コンテストを経てアナウンサー、名も知らぬ町の市長からアラスカ知事になった、という経歴が知られるようになるにつれ、「おいおい、共和党にも人がいるだろうに、なぜ全ての意味で経験の乏しい彼女が?」というコメントが増えてきた、のは理の当然だろう。

 その前後たまたま在米し、テレビしかない山の中にいたから、あるいは情報が偏っているかもしれないが、さまざまな否定的な反応にも関らず、デビュー後の数週間は、彼女が全米の関心をかっさらったことは確かであり、その意味では、パブリシティとして大成功であった。マスコミ好きの政治家の多いアメリカにしては珍しく、彼女は副大統領候補受諾後2週間、あらゆるマスコミの取材はおろか、聴衆との一問一答さえ行っていない。余りの国際知識の欠如に、大慌てで詰め込み教育をしているのだとか、いやこれも巧みなマスコミ演出の手法だとか、噂は様々で、満を持した(?)テレビ出演が全米ネットの一つABCの人気アンカーマン、チャールズ・ギブソンとのインタビューだった。これはネット上でご覧になれる(例えばhttp://video.taggy.jp/detail/180214810)から、内容評価は読者の皆様にお任せするのがよいだろう。

 彼女の演説は、善かれ悪しかれ、女性で、主婦で、母親で、というのが前面に出る。庶民派を強調したいせいか、演説の格調とか、深みに配慮した原稿は使っていないようだ。hockey mom(子供のホッケーゲームを送り迎えする母親)で、自分もその一人だと暗に示唆し、pit bull(闘犬)で、勇猛果敢に戦うという含意を伝える。違いは口紅を付けているかどうかだけだ、といって大向こうから拍手を取ったのは、その一例である。日本人には余り解り易くない地口だが、アメリカ人の友人に聞いても、まあそんな程度のことだろうという。これが有名になったのは、よせば良いのにオバマがこれに引っ掛けて、「口紅を付けても、ブタがブタであることに変わりはない」とやったからで、いささかならず大統領選の品格を落としたきらいなしとしない。

 それはともかく、ペーリンの人選は、筆者には理解の域を超えた。国内問題を超えた視野というものが全く感じられないところには、空恐ろしささえ覚える。マケインに事あったときに、米軍総指揮官がこの人か、という思いだといっても良い。ナイーブさは、美徳でもありうる。グルジア問題に関連してロシア観を問われて、曰く「アラスカ州にいる私は、日夜ロシアと対峙しています!」と。しかしナイーブさは、危険さとも紙一重だ。そんなことは承知の上でマケインは、インテリ層に公然と挑み、「口舌の徒は関知するところではない」というメッセージを送ったのかもしれない。洋の東西を問わず、選挙に勝つということは、本質とは別に技術としての側面を持つ。さて、日本の来るべき衆議院議員選挙はどうなるのだろう。
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