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2008-11-04 08:00

防衛相は“田母神思想”を洗浄せよ

杉浦 正章  政治評論家
 空幕長・田母神俊雄更迭事件の重要ポイントは、この極右独善思想が防衛省内にどの程度内在または蔓延しているかと言うことだろう。幸いにして田母神思想はその支離滅裂な特徴からみても、二・二六事件に影響を与えた北一輝の思想ほど説得力のあるものではない。しかし地位が空幕長である。若い自衛官に少なからぬ影響を及ぼし、何らかの行動へと結びつく可能性がないかということだ。防衛省は隊員の健全な思想維持に向けて田母神思想を洗浄する必要がある。田母神思想の本質は、一部の右翼言論人の“受け売り”である。「蒋介石に日中戦争に引き込まれた」に始まって「ルーズベルトの罠にはまって真珠湾攻撃」「侵略国家は濡れ衣」などの発言は、いつも理路整然と方向を間違っている女性評論家を含めた、右翼言論人の常套用語である。新聞は朝日新聞から読売新聞に至るまでその社説で田母神論文を完全否定している。唯一産経新聞だけが「個人の自由な歴史観まで抹殺するのであれば、言論封じとして将来に禍根を残す」と主張している。

 産経も右寄り編集は勝手だが、事と次第によりけりである。「個人の自由な歴史観」は、空幕長という立場から考えられないことであり、これだけの発言をするなら、防衛省を去ってからすべきである。逆にこのような発言を放置すること自体が、「将来に禍根を残す」のである。主張に隙がありすぎて、平衡感覚の欠如が目立つ。朝日の社説が「文民統制の危機」と受け止め、毎日は「このような人物がトップの組織では、同様の考えを持つ人が多数を占め、正論と受け止められているのではないかとの疑念がわく」と述べているのは、もっともだ。懸念されるのは、このような思想が、最近地に落ちた政治家の道徳や官僚不祥事批判に結びつき、過激な行動に直結する恐れがないかと言うことだ。

1965年に制服組の独走とされる事件が発生した。朝鮮半島有事を想定した三矢研究であり、戦後日本におけるはじめての制服組の有事研究であった。当時の首相・佐藤栄作は、次官以下を処分して乗り切ったが、以来制服組の独走は極力抑えられてきた。例外的に「超法規発言」で更迭された統幕議長・栗栖弘臣の例があるのみである。防衛省内にさまざまな意見があることは、民主主義の建前から否定すべきものでもない。しかし繰り返すが、「立場」があるのだ。田母神は5万人の航空自衛隊を統括する立場であり、一朝有事の際にはぎりぎりの判断を要求される軍事専門家だ。その立場にあるものが、これだけの事実誤認、史実の歪曲、判断間違いをするようでは、とても国の安全保障を任されるものではない。思想が分かっていながら、空幕長に任命した側の責任は当然ある。

 田母神は「国家や国民のためだと思って書いた」「侵略国家であるという呪縛が、国民の自信を喪失させるとともに、自衛隊の士気を低下させており、従って国家安全保障体制を損ねている」と記者会見で開き直っている。まさに“確信犯”であるが、何という唯我独尊思想だ。自分の思想こそが安全保障体制を毀損することに気づかない。かっての陸軍総司令部を想起させる。懸賞論文には50人を超える自衛官が応募していると言うが、省内への影響が懸念される。報道機関はこのような思想が防衛省内に蔓延していないかどうかを直ちに調査すべきである。また防衛相・浜田靖一も、田母神論文の背景、その影響度を調べるとともに、制服自衛官の思想、行動様式などを詳細にわたり掌握すべきである。文民統制があやふやなまま放置されると、それこそ取り返しのつかない事態を招く。田母神の影響、思想を洗浄して、払拭する。これが信頼を回復する唯一の道だ。
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