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2008-11-19 20:35

日本は「オバマの変革」に目覚めよ

鍋嶋 敬三  評論家
 「変革(CHANGE)」を掲げたバラク・オバマ氏がアフリカ系米国人として初めて米国大統領の座を射止めた。米国の歴史上、最大級の衝撃を与えた変化である。世界は金融危機の荒波に翻弄(ほんろう)され、米国一極時代が終わりを告げようとしている。その中での「変革」は地球的な規模で影響を及ぼさないわけにはいかない。欧州は米国と距離を置いて独自の地歩を占めるため積極的に動き出し、中国やインドなどの新興国も発言力を高めようとする中、政局の混迷で袋小路に入り込んだ日本は、波に呑まれて沈没しかねない。これでは新しい国際秩序形成のプレーヤーになり得ないのだ。変化は米国人自身がとまどうほど深甚である。今回の大統領選挙はリンカーン大統領が南北戦争の最中に行った奴隷解放宣言や、その100年後、公民権運動の指導者キング牧師の「私には夢がある」演説に匹敵すると歴史学者は評した。

 コラムニストのトーマス・フリードマン氏は「1964年の公民権法の成立にもかかわらず、白人多数派がアフリカ系米国人を大統領に選出した2008年まで、140年以上前の南北戦争が終わったとは言えなかったのだ」と論評した。43歳のアイルランド系カトリック教徒のケネディ大統領は、米国政界に彗星のように現れ、「ニューフロンティア」を掲げた。1961年の就任演説では「国が何をしてくれるかではなくて、君たちが国のために何ができるか問うてほしい」と訴え、米国社会に新たな息吹きを与えた。しかし、3人とも暗殺者の凶弾に倒れた。それだけ彼らが与えたインパクトが強烈だったからであろう。リンカーン暗殺の1865年、米国全土で奴隷制度が廃止されると同時に、反黒人の秘密結社「クー・クラックス・クラン(KKK)」が結成されたのであった。

 オバマ次期大統領の前にはブッシュ政権の「負の遺産」が山積している。内政では財政危機、景気対策、医療保険制度、外交ではイラクとアフガニスタンの2つの戦争、中東和平などの難題が待ち構えている。オバマ氏は選挙戦中から多国間協調路線を掲げているが、先進国、途上国の利害がぶつかる気候変動、経済危機など世界的な解決策に取り組まなくてはならない。日米経済関係は、民主党のクリントン政権下で自動車摩擦など最悪の時代だった。当時のモンデール駐日大使が「日米は地獄を見た」と栗山尚一駐米大使に漏らしたことがある。オバマ次期政権移行チームでは、クリントン政権の要人が影響力を行使している。経済関係は当時と違って米国の目は中国に向いているが、二度と地獄を見たくないものだ。

 フランスの国際政治学者のモイジ氏は、国力に反して日本の「自信のなさ」が目立つと指摘した。日本は戦後60年間の成功に自信を持って、積極的に行動すべきだと忠告する。多極化の時代には政治、経済、軍事いろんな分野で流動的要素が強まる。リーダーシップを取る国と取らない国の優劣がはっきりする。フランスのサルコジ大統領が金融危機への対処で欧州主導を試みてきたのはそのためである。今回の新興国も参加したG20金融サミットは、米国主導に代わる世界秩序の再構築の始まりと言える。「自信のない日本」は、米国に任せておけば安泰という「占領ぼけ」が長期自民党政権下でDNA化したためなのか。「オバマの変革」に目覚めなければならないのは日本である。
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