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2008-11-29 10:08

(連載)田母神論文はシビリアン・コントロールに反するか?(2)

玉木 洋  大学教授
 11月11日の参院外交防衛委員会における参考人質疑での田母神発言で問題点とされるところについて、私なりの感想、評価を以下に述べてみたい。カッコ(「」)内は、杉浦正章先生の引用による本人の発言である。

★「更迭は村山見解による言論統制だ」「自衛官にも言論の自由が認められている。どこが悪かったか」
→空幕トップの立場にあって、外交上も重要な問題になっている日本の過去の軍事行動に対する評価が、政府見解と異なるのは問題である、という考え方もあるとは思う。しかし、田母神氏も言うように、これは村山見解を直接否定した発言でもなく、命令と異なった行動を取ったということでもない。あくまでも言論の範囲のことである。しかも、「侵略は濡れ衣」という言葉を切り取るとやや不注意な感じがしなくもないが、論文全体の趣旨に事実認識の大きな誤りがあるとも思えない。自衛官にも当然言論の自由があり、今後の歴史認識がどうあるべきかについては、むしろ専門家として、最大の関係者として、事実に基づき冷静に論理的に問題提起を行うのが、彼らの役割でもあろう。
 これは、憲法尊重擁護義務が憲法上定められている閣僚が、今後の憲法のあり方について議論することは、当然許されるし、その任務であるのと、ある面で似たようなものである。したがって、マスコミで問題になることをおそれ、それが選挙に影響することを恐れ、またマスコミで問題になった結果として中韓などどの間で外交問題になることを恐れるあまり、即座に更迭したという今回の政府・防衛大臣の対応こそが、事なかれ主義的であり、非常に疑問の残る措置であったと思う。もちろん、外交問題化を避け、国内での政府への無用の反発を避けるのも、短期的には合理的な側面もあり、そういった問題化を避けるための緊急避難として是認の余地はあるとも思うが。
 仮に、“統幕長を自ら辞して、自由に発言したらいい”というのであれば、それは結局自衛官には言論の自由を認めない、ということと同じである。立場や状況によって言論の自由といえども制約があることは当然であるが、そこまでの制約が許されるなら、言論封殺はきわめて容易になる、ということにもなってしまうのではないだろうか。いわゆる自虐史観が特に教科書問題以後の教科書やマスコミの論調の中で主流であるなどの、厳しい偏った環境の中で、幹部隊員教育の改善にまで努めた田母神氏の努力が、今回の騒ぎに対する過剰反応によって無に帰するということがないように祈りたい。

★「(なぜ更迭されたかについて)マスコミ等で騒がれたからではないか」→仮に更迭前のマスコミの動きが「騒がれた」に値しないものだったとしても、政治家やマスコミが騒ぎそうな状況になったからなのであろう。この発言も事実認識として決定的に誤ったものでもないだろう。

★「(改憲について)国を守ることに、これほど意見が割れるなら、改正すべきだ」→自衛隊、国防、軍事に関して、国論は割れている。このため、自衛隊の活動に大きな制約がある。これは事実であろう。「なので改正すべきだ」という意見は、ひとつの立派な意見であり、もっともなものである。更迭に関しての国論の話とは、別の話であろう。なお、サンプルの評価等に議論の余地は大いにあるものの、29日未明の「朝まで生テレビ」での視聴者アンケートでは、約3分の2が田母神論文支持、8割以上が憲法に自衛隊を明記すべし、との意見であった。

★「(隊員に懸賞論文応募を指示したかについて)私が指示すれば、1000を超える数が集まる」→この発言は、97などといった数をもって「指示したのか」と問われたのに対して、“指示はしていない”ということを明確にするために、“指示したならもっとうんと多いはずなので、こんな少ない数が私の指示の結果であるはずもない”ということを強調したに過ぎない、のではないだろうか。「決起云々」ではないだろう。

★「悪い国だと言っては、士気が崩れるし、こういうピシッとした国家・歴史観を持たせなければ、国は守れない」→とりわけ教科書問題以後の自虐史観の著しい教科書で育った世代には、自分の国である日本を嫌う人が多いとも聞く。まして自衛官が誤った"日本は悪“の意識に染まっていては、任務を十分果たせないであろう。日本以外の各国が、事実に反してでも自国を美化した歴史教育を行っている中で、日本が自国のよい面を少し言ったとしても、それ自体が大きな問題になるとは限らない。むしろ各国が自国内で、それぞれの国の立場で考えるということ自体は、明らかに事実に反したり、直接どこかの国の利益を損なったりするようなものでなければ、問題にはならないだろう。むしろ、それを敢えて大きく取り上げて議論すると、そこに漬け込む余地が外国に生ずるということであろう。

★「(記者団に)これだけ長い間自衛官をやってきて、国家国民のためだと思ってやってきて、そんなに私が悪いことしたのでしょうか」→まさにそう問いかけたい気持ちは理解できる。田母神氏は事実に基づいて、ほかの誰もこわがってできなかった大事な問題提起を、勇気を持って、しかも静かに立場をわきまえて、規律の範囲内で行っただけである。それなのに、政治的に波風を立てたくない、という事情だけで、ルールをも無視した非難の大合唱の末、果ては、正当な権利として受けた退職金まで取り上げようという、法も人権も無視した暴論が幅を利かしているという現状は、言論弾圧のファシズム国家ではないかと思うほどである。(おわり)
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