国際問題 外交問題 国際政治|e-論壇「百花斉放」
ホーム  新規投稿 
検索 
お問合わせ 
2009-01-07 16:16

(連載)多極化する世界と多党化する日本(2)

角田 勝彦  団体役員・元大使
 このような流れの動因は、かってのルネサンスの人間解放と同じく、あらゆる専制から個人の解放を求める動きである。自由の拡大への動きである。近・現代において新しい神となった国家、その教会となった中央政府を主対象とする改革の動きである。なお専制をもたらし得る権力は、多角化(政治・軍事のほか経済や文化など)し、多層化(中央政府のほか企業、民間団体、国際機構など)している。今回の金融危機も、この流れの一環である。1990年代からのグロバリゼーションにより拡大した世界経済は、「大きな政府」に代わりに「大きな金融」をもたらした。リチャード・セネット英ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授は、この「大きな金融」を「金融当局や銀行、格付け機関といった一握りのエリートによる中央集権的な専制システム)」と定義している。

 今回の金融危機は、「大きな金融」が崩壊して「公」による権力の規制が行われる段階になったことを意味する。「大きな政府」の復権と見るより、独占禁止法と同趣旨の「資本に対する法の規制」と見るべきだろう。2009年は、混乱のなかに、ニュールネサンスの進展、換言すれば「変革」への希望を感じさせる年となり得る。オバマ政権の発足は、それを象徴するものといえる。経済は、1月発足する米オバマ政権にとっても最優先課題であろう。オバマは2年間で300万人の雇用を確保・創出するため、大規模公共事業を中心とする総額8500億ドル(約76兆5000億円)とも言われる経済再生プラン(オバマ版ニューディール)を発表するとされる。

 しかし、もっと重要な変革がある。世界秩序構築を住宅建築に例えれば、土台であるイデオロギー、壁と躯体である安全保障、家財である経済、上下水道など住宅設備である環境や資源、屋根である経済協力などの他の全ての要素より重要なのは、地盤であるパラダイム(思考の枠組み)なのである。砂上に楼閣は築けない。同じ多極化でも、冷戦時代のような友敵構造のパラダイムのもとの多極化もあれば、オバマが主唱する国際協調を前提にしての多極化もある。世界各国は、大恐慌の時代と違い、経済面でも、G20(金融サミット)開催に象徴されるように、協調による解決を模索している。協調が、経済を出発点に、環境、エネルギー、核不拡散など他の重要分野へ広がる可能性もあろう。

 国際協調が国際関係のパラダイムとなる限り、将来をそう暗く見る必要はない。米国マリスト大学世論研究所(MIPO)が行った最新の世論調査で、景気後退(リセッション)の長期化が予想されるにもかかわらず、米国民の過半数が2009年に楽観的な見方をしていることが分かった由である。「明るい未来を期待している人の割合は、45歳未満が64%、45歳以上では52%と、若い世代ほどより楽観的である」(2008年12月31日付毎日新聞)という。  

 米国の楽観的理想主義に比べれば、我が国は悲観的功利主義に走りやすいが、現実はそう暗くない。円の独歩高が示すように、日本経済の基調は堅調である。活性化については、筆者は昨年12月15・16日付けの本欄への寄稿「大恐慌を恐れず、新しい日本経済を築け」で一提言を行った。出口は見えている。国会で論戦が始まった緊急対策についても、各党の姿勢に大差はなく、政策面の妥協は可能であろう。国際関係においても、直近の例を引けば、麻生首相は、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの空爆をめぐり、パレスチナ自治政府のアッバス議長と電話会談し、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)を通じて1千万ドル規模の緊急人道支援を行う考えを伝えた由である。このような協調の努力を続ける限り、日本が「衰退国家」どころか、ニュールネサンスのフィレンツェになる可能性はかなり大きい。(おわり)
お名前は本名、またはそれに準ずる自然な呼称の筆名での記載をお願いします。
下記の例を参考にして、なるべく具体的に(固有名詞歓迎)お書き下さい。
(例)会社員、公務員、自営業、団体役員、会社役員、大学教授、高校教員、大学生、医師、主婦、農業、無職 等
メールアドレスは公開されません。
ただし、各投稿者の投稿履歴は投稿時のメールアドレスにより抽出されます。
投稿記事を修正・削除する場合、本人確認のため必要となります。半角10文字以内でご記入下さい。
e-論壇投稿の際の注意事項

1.投稿はいったん管理者の元へ送信され、その確認を経てから掲載されます。
なお、管理者の判断によっては、掲載するe-論壇を『百花斉放』から他のe-論壇『議論百出』または『百家争鳴』のいずれかに振り替えることがありますので、予めご了承ください。

2.投稿された文章は、編集上の都合により、その趣旨を変えない範囲内で、改行や加除修正などの一定の編集ないし修正を施すことがありますので、予めご了承ください。

3.なお、下記に該当する投稿は、掲載をお断りすることがありますので、予めご了承ください。

(1)公序良俗に反する内容の投稿
(2)名誉や社会的信用を毀損するなど、他人に不快感や精神的な損害を与える投稿
(3)他人の知的所有権を侵害する投稿
(4)宣伝や広告に関する投稿
(5)議論を裏付ける根拠がはっきりせず、あるいは論旨が不明である投稿
(6)実質的に同工異曲の投稿が繰り返し投稿される場合
(7)管理者が掲載を不適切と判断するその他の理由のある投稿


4.なお、いったん投稿され、掲載された原稿の撤回(全部削除) は、原則として認めません。
とくに、他人のレスポンス投稿が付いたものは、以後部分的であるか、全部的であるかを問わず、いかなる削除も、修正もいっさい認めません。ただし、部分的な修正については、それを必要とする事情に特別の理由があると編集部で認定される場合は、この限りでありません。

5.投稿者は、投稿された内容及びこれに含まれる知的財産権(著作権法第21条ないし第28条に規定される権利を含む)およびその他の権利(第三者に対して再許諾する権利を含む)につき、それらをe-論壇運営者に対し無償で譲渡することを承諾し、e-論壇運営者あるいはその指定する者に対して、著作者人格権を行使しないことを承諾するものとします。

6.投稿者は、投稿された内容をその後他所において発表する場合は、その内容の出所が当e-論壇であることを明記してください。

 注意事項に同意して、投稿する
記事一覧へ戻る
公益財団法人日本国際フォーラム