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2009-01-19 07:55

朝日社説は本音隠しの“魔球”

杉浦正章  政治評論家
 麻生政権の継続に直結する予算関連法案に消費税の2011年度実施を盛り込むかどうかの問題が今週から大きな山場を迎える。16人の造反を抑えられるかどうかで、政権の存否が判断出来るのだ。こうしたなかで、朝日新聞が1月17日の社説で「消費税の扱い:付則に明記し、決意示せ」という見出しで“魔球”を投げた。あきらかに首相・麻生太郎に呼びかけたものだが、これに乗ったが最後、造反で政権はつぶれる。タイミングといい、内容といい、それが目的の社説としか思えない。朝日新聞は麻生の解散先延ばしを契機に、徹底した反自民・反麻生政権の紙面づくりを展開してきた。ところが社説は、一見がらりとトーンを変えたように見える。社説は、消費税で麻生が「11年度より実施できるよう必要な法制上の措置を講じる」との法案の付則を作成することにこだわっていることに対して、「与党はこれまでずっと増税論から逃げてきた。そこへあえて踏み込むというのならば、政治の決断として高く評価したい」と礼賛に一変したからだ。

 裏の裏も読みすぎると嫌味になるが、半世紀も政界をウオッチしておれば、あらゆる策謀、陰謀に目が光るようになる。この社説だけは、やはりピンと来るものがある。もちろん消費税担当の論説委員は経済部出身で、どの社も「導入論」だが、朝日のこの社説の場合は、政治臭が紛々とするのだ。「決意を示せ」という見出しをとれば、これを見た麻生がどう反応するかを読み切った上での社説なのだ。見出しが先行して書いた社説の様相だ。なぜ「反麻生」の朝日がここにきて、取って付けたように「高く評価」なのかということだ。折から自民党内は「消費税政局」の様相が強く、麻生が付則への「11年度明記」に固執すれば、造反が出ることは確実と予想される。3分の2条項の再決議を待たずに、予算関連法案の採決段階から造反議員が分かる。それよりも早く、月内にも自民党内の調整過程で造反議員がはっきりするかもしれない。

 そうなれば確実に政権は行き詰まるのだ。朝日の社説は言ってみれば、そこをめがけて投げた渾身の一球だ。その証拠には、社説をよく読むと、奇妙なことに反麻生の動きをあおるような文章も入ったままとなっている。つまり「自民党内の反対論には耳を傾けるべきものもある」として、(1)増税を実施するかどうかは11年度へいたる景気を慎重に見きわめなければならない、(2)歳出削減や行政改革の手をゆるめることがあってはならない、と反麻生の主張をそのまま取り入れているのだ。これでは「明記せよ」との見出しと、全く矛盾する。つまり麻生に対しては「明記せよ」と書き、一方で反主流も扇動するという大矛盾の論理構成なのだ。要するに党内対立をあおるのが本旨なのだろう。したがって、朝日の社説は、より巧妙に「反麻生」をカムフラージュしながら、冒頭に述べた“魔球”を投げたことになる。朝日の本音は、政治担当解説委員・星浩が15日夜のテレビ朝日ニュース番組で述べている。

 「消費税問題は、各種世論調査でも国民の風当たりが強くなっている。総選挙は、任期中に増税する議員を選ぶか、増税しない議員を選ぶかが、最大の焦点になる」と発言している。要するに社説には、民主党政権を実現したいとする本音がありありとみられるのだ。このように政界のみならず報道も、陰謀渦巻く様相だが、前から述べているようにこの難所を切り抜けるには、麻生は2011年実施に固執すべきではない。何度も言っているように、内閣の命運をかけるような問題とする価値などないのだ。税調会長・津島雄二までが、17日「付則でも明示する必要はない」と述べている。ここは自民党得意の玉虫色で決着するしかない。執行部案の「11年度より実施できるよう必要な法制上の措置を講じる」との表現に対し、反対派の中核・中川秀直は「実施」という文言を外すよう求めており、用語上の表現で調整可能の側面も出て来た。党内激突のコースなどこの未曾有の金融・経済危機の時に愚の骨頂だ。麻生もここは妥協するしかないのだ。ここで判断を間違うようなら、もう後はない。
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