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2009-07-27 16:53
エネルギー供給源多角化とロシア・リスク
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
最近、原子力発電が地球温暖化対策の切り札の一つとして世界的に見直され、それに伴ってウランの争奪戦が激化している。ウラン鉱石の価格高騰が懸念され、我が国としてもウラン鉱石の調達先を多様化することを目指している。現在、日本のウランの年間需要は約9000トンだが、そのほとんどをオーストラリアとカナダに依存している。一方、モンゴルは現時点で確認されているウランの埋蔵量は約6万トンだが、未探査地域に139万トンに上るウランが手つかずのまま眠っているという試算もある。モンゴルは、これを日本の資金と技術により開発し、輸出したいと考えている。このような背景のもと、日本政府とモンゴル政府は、7月16日に、モンゴル国内でのウラン鉱山開発や日本による原子力技術協力などを進める内容の、原子力分野に関する協力文書に調印した。文書調印に伴い、日本企業の参入を容易にするような鉱業法の運用などについても協議する。そして、協議が進めば、日本は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)を通じて鉱床の探査などに乗り出す方針である。
原則論としては、エネルギー資源の調達先を多様化するという方向性は間違っていない。しかしながら、モンゴルからのウラン調達には大きな不安要因がある。それは、ロシアの存在である。今年の5月には、ロシア国鉄とモンゴルの鉄道会社MTZが、モンゴル国内の鉄道の運営を共同で効率化させる内容の文書に署名した。これは、ロシアが将来モンゴルにおける未開拓の莫大な量のウランを搬送・獲得し、国際的な影響力を強めるための布石であろう。モンゴル側もロシアとの間でウランをはじめとする鉱物資源の共同開発に乗り気である。ロシアは陸路でのアクセスが可能なだけに圧倒的に地の利がある。モンゴルから産出するウランを運び出すには、ロシア(あるいは中国)を経由しなければならない。モンゴルとの連携強化にはそのような地政学的制約条件が付きまとうのである。同じく5月には、日本が原子力技術を供与する見返りに、ロシアがウラン濃縮を行い、ウラン燃料を安定的に供給するという「日露原子力協定」が締結されている。現在、ロシアはウラン濃縮において世界の約4割のシェアを占めている。そのロシアがモンゴルのウランのうちの相当程度の割合を獲得すれば、ロシアの資源ナショナリズムが増長するおそれがある。
さらに、2008年4月には、ロシアとモンゴルの間で、対露貿易の拡大やロシアがモンゴルの軍備近代化を支援するという合意がなされている。これは、ロシアがモンゴルを勢力圏下に置き、衛星国としてしまう可能性を意味する。しかも、日露原子力協定によって、そもそもモンゴルから産出されるウラン鉱石をロシアが濃縮して日本に供給するという構図になる可能性が高い。そうなれば、モンゴルのウランを獲得しようとする努力が、ロシアのウランを獲得しようとする努力に変質してしまう。これは、エネルギー安全保障上重大な懸念材料となりうる。欧州が天然ガスをロシアに依存しているためにロシアの意向に従わざるを得ない様子を見れば明らかであろう。上記のような事態を防ぐには、まず、モンゴルにおけるロシアによるウランの独占的支配を許さないという戦略が考えられる。それには、他の西側諸国との連携を真剣に考えるべきである。例えば、フランスはモンゴルのウランに多大な関心を示しているが、そのような国との共同開発により、ロシアに対抗するのである。
一方、モンゴルに深入りしすべきでないという選択肢も大いに検討に値する。現在の日本のウラン調達先は、先にも述べたとおりオーストラリアとカナダであるが、両国は資源ナショナリズムが高まる可能性がまず考えられない安定した民主国家である。したがって、これらの国からの安定供給をさらに確実にすることも考えるべきである。そのためには、EPA(経済連携協定)を結んで、その中にウランの安定供給を担保する仕組みを内包してしまうのがよい。ただ、問題は、EPAの締結に際しては、常に日本の農業問題が足かせになるということである。これは何としても解決しておかなければならない。もちろん、オーストラリアやカナダとのEPAと、モンゴルとのウラン共同開発は排他的である必要はないが、モンゴルにはロシア・リスクが付きまとうことを肝に銘じ、慎重を期する必要がある。なお、最近、海水からのウラン採取技術の実用化が視野に入ってきて注目を集めており、これの本格的推進がウランの安定供給の大きな柱になりうるということも付け加えておきたい。
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