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2009-09-21 01:25
ロシアの危険なカルト・ナショナリズム
河村 洋
ニュー・グローバル・アメリカ代表
ロシアでナショナリズムが高まるにつれ、国民は強力な指導者を待望するようになっている。2008年12月13日のアル・ジャジーラは、ロシアの歴史で最も偉大な人物の投票結果について、報道している。その投票によると、1位はアレクサンドル・ネフスキーであった。13世紀にノブゴロド大公とウラジーミル大公であったネフスキーは、ローマ・カトリックのスウェーデンとドイツ騎士団の侵入を撃退した功績で、ロシア正教の聖人に列せられている。第2位はピョートル大帝である。第3位は賛否両論を引き起こす指導者、ヨシフ・スターリンである。何がスターリンの人気をこれほどまで高めているのか?モスクワの街頭でインタビューに応じた女性は「暴虐ではあったものの、ロシアがナチスを打倒して超大国にのし上がるためには、スターリンが必要だった」と述べた。しかしカーネギー財団モスクワ・センターが刊行する『プロ・エ・コントラ』誌のマーシャ・リップマン編集長は「スターリンが大量虐殺を行い、数百万人を強制労働収容所に送ったことを、一般市民は見落としている」と主張する。
スターリンへのそうした熱狂的支持は、現在の強権的指導者ウラジーミル・プーチン氏に対するものと表裏一体である。アル・ジャジーラが2007年11月30日に放送した番組では、プーチン氏は「自分達の時代のスターリンだ」と称賛されている。プーチン氏は、大祖国戦争の激戦地のボルゴグラードをスターリングラードという名に戻している。イギリスのジャーニーマン・ピクチャーズというニュース配給会社は、2007年11月7日の放送で現在のロシア政治の文脈からスターリンをめぐる論争を取り上げている。ロシアの人権活動家グリゴリー・シュベードフ氏は「プーチン氏とクレムリンのかれの同志達は、スターリンへの郷愁を利用して『ナロード(人民)』を統治している」と指摘する。
マネー資本主義となったロシアに蔓延する政治的な無秩序の中で、高齢者層と若年層の間ではヨセフ・スターリンのカリスマ性が、これまで以上に輝きを増している。非常に興味深いことに、スターリンがレーニン時代の社会主義インターナショナルに代わって新しいソ連国歌を採用し、その国歌はプーチン氏がボリス・エリツィン氏から大統領職を引き継いだ際に復活した。この歌は元来、大祖国戦争でナチス・ドイツと戦うソ連兵を勇気づけるために作曲された。インターナショナルと聴き比べて比べてみれば、この歌はあまりにロシア的である。社会主義国であれ、資本主義国であれ、これほどまでに「祖国、祖国、祖国」と繰り返すナショナリズム丸出しの国歌は他にない。
スターリンを大祖国戦争の英雄、超大国を育てた偉大な指導者として礼賛する空気は、当然のことながら周辺諸国や欧米との関係にも影響する。今年の8月10日には夏季休暇を過ごしたソチから、メドベージェフ大統領はウクライナへの大使赴任の延期とユーシェンコ政権への非難演説を行なった。黒海沿岸の保養地からの演説は、モスクワからのものよりウクライナにはるかに大きな心理的圧力となったであろう。また、9月1日にポーランドのグダニスクで開催された独ソのポーランド侵攻70周年記念式典では、プーチン首相がカチンの森虐殺事件を否定して、物議を醸した。ロシアではソ連の亡霊が復活するのであろうか?今月17日にアメリカのオバマ大統領がポーランドとチェコへのミサイル防衛システム(MD)の配備中止を決定した際に、ロシアのタカ派が勢いづいた。かつての共産主義に代わって、今度はカルト・ナショナリズムという怪物に要注意である。
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