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2009-11-05 09:51
(連載)EUの温室効果ガス削減交渉術を見習うべきだ(1)
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
欧州連合(EU)は、2020年までの温室効果ガス排出削減の中期目標を、他の先進国が「同程度の削減義務を負う」ことを条件に、現在表明している「1990年比20%削減」から「同30%削減」に引き上げるとしているが、当面(少なくとも年内)は引き上げを見送る方針となった。12月にコペンハーゲンで開催される変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)へのEUとしての最終的な立場の決定を行うために10月30・31日に行われた首脳会議で、目標引上げを「当面は議題にできる状況でない」との立場で一致したのである。この結果、COP15では、日本の「1990年比25%」が、EUの中期目標を抜き、主要国の中で最も高い削減目標となる。すなわち、我が国の削減目標が「最も野心的な削減目標」となるということである。
しかし、これは鳩山政権の温室効果ガス削減交渉への取り組みの稚拙さを表しているのであって、決して喜ぶべきことではない。さて、EUが今回の判断を下した根拠は主に次の通りである。(1)米国では、オバマ政権は排出削減に意欲的だが、中期目標を盛り込んだ上院の温暖化法案が年内に成立するのは困難な情勢にある。(2)金融危機を受けて、EU内でも「経済成長を優先すべきだ」との声が強まっている。(3)とりわけ、エネルギーの石炭依存度の高い東欧諸国が、「温室効果ガス排出の制限が不況下の産業を追い込む」として、急進的な排出削減に異を唱えている。
EUは、目標引き上げを完全に引っ込めたわけではなく、あくまでも建前上は「見送り」である。しかし、上記のように、域内からの異論もあるために見送ったのであり、「EUが世界で最も温室効果ガスの削減に熱心な優等生である」というイメージが幻想であることが分かる。当たり前のことだが、EUも自らの経済が第一である。このようなEUの態度は、責められるべきというよりも、我が国は見習うべきであろう。国益を追求しつつ、温室効果ガス削減という国境のない課題を同時に解決しなければならないところが、この問題の特異であり、困難な点である。
そもそもEUは、他の先進国が「同程度の削減義務を負う」ことを条件に削減目標を30%に引き上げるというが、こんなことは、およそ達成される見込みのない話である。例えば、米国が温室効果ガス排出量を1990年比で25%削減すると表明することなど、到底想定されるものではないが、「他の先進国が同程度の削減義務を負う」ことを条件にするとは、そういうことを求めることに他ならない。このように、EUにとって無理のない「20%削減」に落ち着くことを見越して、あえて満たされるはずのない条件を付けて30%への目標引き上げを表明している点に、EUの温室効果ガス削減交渉の巧妙さがある。(つづく)
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(連載)EUの温室効果ガス削減交渉術を見習うべきだ(1)
高峰 康修 2009-11-05 09:51
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高峰 康修 2009-11-06 09:24
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