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2009-11-29 10:38
国民投票は政策判断の誤りを防ぐ防波堤になりうるか?
玉木 洋
大学教授
改めて角田氏の御投稿を読み返し、その趣旨は「個々の政策については民主党が支持されているわけではない中で、民主党が国会で多数を占める状況において、国家の基本的な重要施策についての政策判断が国会において誤ってなされる可能性に対して、防波堤の意味で国民投票制が必要」ということであろうと理解させていただいた。そのように理解させていただき、現在の鳩山政権の政策判断の危うさ、とりわけ国家の根幹に関する問題についての危うさを見れば、私も国民投票を必要とする論の動機及び目的には相当の共感を持つところである。民主党政権に圧倒的多数を与えた国民であるとはいえ、その得票率はせいぜい有効投票の半分程度であり、個々の政策ごとに真剣に議論を行えば、国民投票において民主党の誤った政策を防ぐことが可能な場合もあるかもしれない。
例示された中で八ツ場ダムの問題のように、地元の苦悩・悲鳴や関係者多数の反対報道が印象的な事案では、民主党の中止方針に反対する結果が国民投票で出る可能性もある。しかし、多くの問題において、個々には耳に心地よい民主党の政策が支持される可能性も高いように思われる。さらにいえば、今次の総選挙において見られた投票結果自体が、国民投票が防波堤になりえないことを示唆しているのではないかと、私は危惧する。仮に、個々の施策で国民投票を行った場合には、その部分だけにおいて国民に心地よい方向の判断が示される可能性が高いのではないだろうか。まして、投票を義務化し、関心や理解度が低い国民も投票することとなれば、なおさらその危険性が増すようにも思われる。外交防衛政策等、その本質的な意義・重要性を国民多数が理解することが容易でない問題に関しては、国民多数の耳に聞こえの良い方向(ではあるが、国民にとって長期的・本質的な利益になるとは限らない方向であり、多くは民主党が公約に掲げた方向)の結論が得られることとなって、国民投票は(特に義務制ではますます)防波堤にはならないのではないかと思われる。
国民投票の実例として挙げておられる欧州での国民投票の対象は、主権の根幹にかかわる部分のものであるが、より具体的な個々の政策については、より慎重な対応が必要なのではないだろうか。外交防衛や国家の発展の基礎となる政策に関して、見方によっては今の政権の方向性は危険なものであるかもしれず、それを正しく修正するためにはどのような方向がありうるか、の議論は極めて重要であると考える。この点でおそらく角田氏と認識を共通にさせていただけるのではないかと思う。しかし、国民投票制においても、妥当ではない投票結果が発生するおそれは十分あるのであり、個々の政策については、冷静に専門的、多角的な議論を踏まえて、選良が整理・判断していくという方が、やはり基本であり、国民投票制よりも相対的に安全な道なのではないか、と私には思われる。
現在の政策選択上の問題の解決の方向としては、短期的には、さまざまの意見表明や世論調査や各地方選挙、国政の補欠選挙などで、現政権の問題点について批判的な国民の意思が高まっていることを示していくこと(そのためにもこのような場を含めて政策議論を深め、広めていくこと)によって政権に翻意を迫っていくことが重要であり、中期的には、多様な議論を阻害しやすい小選挙区制をかつての中選挙区制への復活を含めて見直すことが重要ではないかというのが今の私の一つの案である。なお、ご投稿の中で「代議制民主主義に代わる選択肢はない」とおっしゃっているのに、私が「直接民主主義」云々としたのは表現上的確でなかった面があるのかもしれないが、国政の根幹にかかる事項について国民投票を行うということそのものがその部分において直接民主主義であると考え、そのような表現を使わせていただいた。
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投稿履歴
(連載)国民投票の実施と投票の義務化を(1)
角田 勝彦 2009-11-18 10:33
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(連載)国民投票の実施と投票の義務化を(2)
角田 勝彦 2009-11-19 09:44
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直接民主主義が良いとは限らない
玉木洋 2009-11-21 01:38
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国民投票の薦めは、「直接民主主義」の薦めではない
角田 勝彦 2009-11-24 10:35
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国民投票は政策判断の誤りを防ぐ防波堤になりうるか?
玉木 洋 2009-11-29 10:38
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より多くの民意を国政に反映させるために
角田 勝彦 2009-11-30 12:43
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(連載)なお残る国民投票に委ねることの懸念(1)
玉木 洋 2009-12-01 02:57
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(連載)なお残る国民投票に委ねることの懸念(2)
玉木 洋 2009-12-02 09:38
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