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2009-12-19 10:04
(連載)鳩山対米外交は、故意か?過失か?(2)
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
さて、日米同盟は、ひとり日本の安全のみならず、アジア太平洋地域の安定と平和にとっても礎である。すなわち、日米同盟は、地域の「国際公共財」である。したがって、日米同盟のあり方には周辺国も大いに注目をしている。例えば、オーストラリアのマレー・マクレーン駐日大使は、10月末に民主党中堅幹部を訪ねて、良好な日米関係はアジア太平洋の安定に不可欠であるとして、同じ米国の同盟国として日米関係の悪化に対して懸念を伝えてきている。また、台湾の野党・民進党の蔡英文主席は12月15日に東京都内における記者会見で、米軍普天間飛行場の移設問題について、「米海兵隊の存在は(台湾を含む)地域住民に安心感を与えている。この問題により、地域の平和と安定に死活的な日米同盟が弱まらないことを望む」と述べている。このようにアジア太平洋地域の国々が、日米同盟を「国際公共財」として重視していることに、鳩山政権は全く無頓着である。日米同盟の意義を理解していないとしか言いようがない。
ただ、あくまでも個人的な推測だが、鳩山氏の対米外交「失策」は単なる過失なのか、故意なのか、疑念が残る。連立を組む社民党・国民新党(とりわけ社民党)への配慮と鳩山氏の決断力のなさが相俟って、鳩山氏にこのような決断をさせているというのが通説だが、鳩山氏の意固地ともいえる強硬姿勢は、私には、それだけですっきりと説明できるとは思えない。鳩山氏の持論は「常時駐留なき日米安保」である。それは、日米同盟の弱体化に他ならない。12月16日の会見で鳩山氏は「常時駐留なき日米安保」について、「首相という立場になった中で、その考え方は封印しなければならない」と述べたが、「長期的な発想では、他国の軍隊が居続けることが適当か、という議論は当然ある」とも言っている。
鳩山政権は、日米同盟を軽視する一方で、中国との関係強化には異常な熱心さを示している。その象徴的な例が、中国側の要請にこたえて「30日ルール」を無視して強行された天皇陛下と習近平副主席との会談である。また、小沢一郎氏の側近として知られる民主党の山岡国対委員長が、上海で行なわれたシンポジウムの挨拶で、「日米中正三角形論」に言及している。鳩山氏の米国を排除することを示唆した東アジア共同体構想や「常時駐留なき日米安保」構想は、畢竟は日米中正三角形論と同根である。日米中正三角形論は、日米の距離をとって日中の距離を縮めるということだが、日本防衛にコミットしている同盟国である米国との距離を、急速な軍拡などを通じて脅威を与えている独裁国家である中国との距離と等しくすることなど、全く非現実的である。さらに、そのような考えをとること自体が、日本の安全を害する極めて危険なことである。日米が連携を強めることにより、中国に誤った行動をとらせないことが、日本とアジア太平洋地域の平和と安定を維持する最善にして唯一の策である。
鳩山首相の一連の言動は、米国との関係を故意に悪化させることにより日米間の距離を広げ、この誤った日米中正三角形論を実現する方向を目指しているように受け取れる。そのように考えると、最も平仄が合うのである。もしそうであるとするならば、鳩山政権が日米関係を悪化させているのは、単なる「失策」というよりも、信念に基づいてやっているということになる。それは、我が国にとって致命的に危険なことであり、大いに危惧される。さらに、周辺国の多くにとっても看過できないことである。そして、日米同盟の悪化は、鳩山氏が首相である限りとどまることがないであろう。(おわり)
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高峰 康修 2009-12-19 10:04
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