ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2010-02-13 20:01
(連載)問題のある「日中歴史共同研究委員会」報告書(2)
高峰 康修
岡崎研究所特別研究員
以上のようなことから、日中歴史共同研究は建て前の上では「政治と歴史の分離」を目的としていることになってはいるが、中国側の意図は全くそうではないことが分かる。これでは、まともな議論になるはずがない。先程挙げたいくつかの論点や、その他、化学兵器に関する記述にも不満な点は多々あるが、あくまでも政治的意図に基づいて歴史を構築しようとする中国側に対して、日本側はアカデミックな立場から逸脱しないという制約のもとで、よく対抗したと評価すべきなのかもしれない。
しかし、日本側参加者がいくら「政治と歴史の分離」という善意を持っていたとしても、今回の報告書が「日本が中国を侵略したことを確認した文書」として中国当局に歪曲され、結局は中国に「歴史認識カード」を再び持たせてしまうことになるのではないかと懸念する。そうなれば、それが結果的に日本の国益に反することは言うまでもない。
他国との歴史の共同研究が意味を持つのは、次の二つの場合だけであろう。一つは、両国の研究者があくまでもアカデミックな関心から公平な立場で研究する場合である。これが日中の場合に当てはまらないことは、すでに述べた通りである。もう一つは、両国のナショナリズムを互いに抑制し、争いごとが起こることを防止しようとする場合である。これは、政治的な営みであるが、前向きな発想に基づくものである。これに当てはまるのが、ドイツとポーランドの歴史共同研究とそれに基づく歴史教科書の相互チェックである。日中や日韓の共通歴史教科書作りを目指す勢力は、これを引き合いに出すことが多いが、事情は根本的に異なる。中国や韓国に自国のナショナリズムを抑え込むという強い意思が生じない限り、ドイツとポーランドの例は手本とはならない。
今回の「日中歴史共同研究委員会」報告書から学ぶべき教訓があるとすれば、それは、中国と歴史共同研究などすべきではないということであろう。中国は時の政権が歴史を「創る」国である。そのことを肝に銘じなければ、中国に巧妙に政治利用されて終わることになる。(おわり)
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
(連載)問題のある「日中歴史共同研究委員会」報告書(1)
高峰 康修 2010-02-12 00:44
┗
(連載)問題のある「日中歴史共同研究委員会」報告書(2)
高峰 康修 2010-02-13 20:01
一覧へ戻る
総論稿数:5546本
公益財団法人
日本国際フォーラム