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2010-07-20 15:10
日米同盟の深化問う防衛大綱見直し
鍋嶋 敬三
評論家
菅直人内閣が全力で取り組まなければならない喫緊の課題が防衛計画大綱の見直しである。2004年策定の現行大綱は、本来昨年暮れに見直し、新大綱とそれに基づく5カ年の中期防衛力整備計画ができていなければならなかったが、民主党への政権交代で1年先延ばしされた。国際秩序の大きな変化にもかかわらず、国家の安全保障にかかわる防衛大綱が決定されていないこと自体が、民主党政権の危機意識の希薄さを示すものだ。世界は中国やインドなどの新興国の台頭、経済のグローバル化で多極化へ動いており、軍事力を含めた米国の相対的な力が低下、国際秩序は不安定化している。鳩山由紀夫前政権下で普天間飛行場移設問題で亀裂の入った日米同盟関係は修復過程にある。「日米同盟の深化」を唱えるならば、不確実性が増大した国際安全保障環境に対応して、日本の安全保障・防衛戦略を確固とするため、米国の4年ごとの国防態勢見直し(QDR)とも密接に関連した大綱を目指すべきである。
この5年間、日本周辺の戦略バランスは大きく変わった。北朝鮮の核実験、ミサイル開発の急速な進展、中国の衛星破壊実験、ミサイル迎撃、海軍の太平洋への進出、ロシアの新軍事ドクトリン発表、極東ロシア軍の活動活発化など、軍事的変化は目覚ましい。QDRが指摘するように、海、空、宇宙、サイバー空間など国際公共財(グローバル・コモンズ)への挑戦、米軍の接近を妨害、阻止する能力(アクセス拒否)を強めようとする中国など、新たな挑戦が目立ってきた。これらへの対応策が、米軍の前方展開プレゼンスの強化である。米国は2008年の国家防衛戦略(NDS)で、(1)同盟およびパートナーシップの拡大強化、(2)戦略的アクセスの確保、を目標に掲げた。米国にとって同盟の「深化」は、同盟国による一層の貢献を意味する。QDRでは「北東アジアで二国間、地域およびグローバルな包括的同盟を構築、集団的な抑止と防衛能力強化のための合意された計画および共有されたビジョンを実行するため、日本、韓国と緊密に協力している」と明記された。
歴代自民党政権は、安全保障と防衛に関する有識者懇談会を内閣が組織して、提言をまとめさせてきた。しかし、安倍晋三、麻生太郎内閣とも懇談会の報告書提出直後に退陣し、提言はたなざらしになった。2009年8月の提言は、集団的自衛権の解釈変更、自衛隊海外派遣の恒久法制定、武器輸出3原則の緩和などを主な内容とした。民主党政権になって2010年2月に発足した「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」では、以上の論点がどのように議論されているのか、議事録からは不明だ。日米同盟関係の「深化」は、これらの問題を素通りしてはあり得ない。明確な問題提起を望みたい。
政権党である民主党は、防衛計画大綱の見直しについて、党内で活発な議論がなされているのか。北沢俊美防衛相は6月の首相交代に伴う留任会見で「民主党の安全保障論議、防衛の在り方についての基本的なスタンス、現状をどう認識するのか、将来的にどうするか、という問題はいささか貧弱な議論だった」と語っている。政権交代から1年たっても、なお野党ずれした体質を引きずっているのだ。イデオロギー的に左から右までの寄り合い所帯の党内が、確固とした安全保障・防衛政策を打ち出せるのか。参院選大敗で9月の代表選挙に向けて党内抗争の気配も濃厚で、まともな防衛論議ができるのか懸念される。国家の基本にかかわる防衛政策の柱について、政権政党として真摯な議論を深める時である。
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