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2010-09-17 14:09
中東和平直接交渉の成否を握る3点
水口 章
敬愛大学国際学部准教授
9月2日、ワシントンで1年8ヶ月ぶりにイスラエルとパレスチナの直接交渉が再開した。イスラエルのネタニヤフ首相とパレスチナ自治政府のアッバス議長は、1年以内に主要課題での枠組み合意を目指すことを確認し、そのために2週間に1度の定期交渉を行うことになった。交渉の仲介人を務めている米国のミッチェル中東和平担当特使だが、今回の首脳会議に対するミッチェル特使の評価は「建設的で前向きなムードだった」というものである。以下に、この交渉の行方を見る上で注目すべき点を、3点挙げておく。
第1は、多くのメディアで指摘されているように、9月26日で期限を迎えるイスラエルによる入植活動の凍結措置が延長されるかどうかである。アッバス議長が、凍結延長が交渉継続の条件だと言及しているからである。9月2日付ガーディアン紙は「ネタニヤフ首相が、(1)これまでの入植地政策が今日、有効性を失いつつあることを認識し、(2)和平達成の歴史的功績者になるとの野心も持っている」と指摘している。また、米国のオバマ大統領はエジプト、ヨルダン、サウジアラビアというアラブ穏健派諸国の協力を得て、仲介努力を行っており、和平交渉の環境は整っているといえる。したがって環境面では、入植活動凍結が延長され、交渉が継続される可能性が高まっているといえる。一方、(1)入植活動に関するネタニヤフ首相の政策決定の国内要因の1つである、リーベルマン外相をはじめとする入植推進派に対する配慮、(2)オバマ大統領がイスラエルに外圧をかけるカードを有していないという点から見れば、イスラエルの連立政権は、仮に入植地の凍結延長を認めたとしても、交渉の成果を承認する方向に動く蓋然性は低いといえる。
第2は、アッバス議長は暫定自治政府の代表者であるが、実質的には西岸だけしか統治できておらず、今後、ガザのハマスをどの程度コントロールできるかという点である。ハマスは首脳会議を前にした8月31日に、西岸のユダヤ人入植地でユダヤ人4人を殺害する事件を起こしている。ハマスは、9月1日もイスラエル人の車両を銃撃し、2人を負傷させている。このことからも分かるように、仮に交渉で、パレスチナ国家の国境画定、安全保障、難民の帰還権、エルサレム帰属問題などが話された場合、ハマスはイスラエルとの緊張を高める行動を起こすことで、交渉の進展を阻止しようとするだろう。
第3は、イスラエル・パレスチナ交渉を阻止する力が外部から働くことである。イスラエルのハーレツ紙は8月30日付で、レバノンのシーア派民兵組織ヒズボラとシリアが合同軍事本部を創設したことを報じている。この動きに、イランの革命防衛隊が関与していることは推測できる。そのことは、シリアとイランが共同して、イスラエルがこの和平交渉の舞台から降りざるを得ないような軍事的緊張状況をつくり出せることを意味している。以上のことからすると、今回の和平交渉には、イランの核開発問題へのイスラエルや国際社会の対応も関係していることが見えてくる。中東和平問題は、歴史的に幾多の努力がなされては失敗してきた。今回も交渉の進展は非常に困難な状況にあるといえる。しかし、交渉を行わない限り「平和の果実」を手にすることはできない。仲介者であるオバマ政権には、交渉が停滞しても、後退したとしても、忍耐を持って仲介の労を果たし続けることを望みたい。
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