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2011-01-08 10:50
(連載)物価低落にこだわらず、実質的経済成長を目指せ(2)
角田 勝彦
団体役員
『日本経済新聞』と日本経済研究センターの共同提言は、その冒頭で「政府・日銀は、1~2%の物価上昇率目標を明示し、共有すべきである」と提言している。日銀は、昨年10月5日に「包括的な金融緩和政策(4年3ヶ月ぶりのゼロ金利復活)」を公表し、デフレ克服のための諸施策を明らかにした。さらにその後の展望リポートで、2012年度にデフレ解消に向かう姿を示しているように見える。今回の提言は、これを一歩進めたインフレターゲット論といえよう。
これには、現在の慢性的経済低迷を、伝統的デフレ・スパイラル(物価下落→企業業績悪化→労働者の収入悪化→商品販売の不振→物価下落)と見ている誤りがある。現在生じている一般的物価下落(生鮮食品を除く消費者物価指数は昨年11月まで21ヶ月連続で前年同月を下回っている)は、1990年代からのグローバリゼーション(私は「地球一体化」と訳す)という外的要因と科学技術(販売などソフト面を含む)の進歩及び円高を主因とするもので、投機資金の流入による一部商品の高騰が散発的にあるとしても、今後の経済の趨勢になるであろう。ユニクロ、マック、家電、低価格旅館、海外旅行など身近の衣食住関係商品・サービスの価格の動きが示しているとおりである。だいたい日本の物価は高すぎたのである。
すなわち、インフレターゲット論は景気循環の一環としての景気後退(リセッション)ないし不況(デフレ)を物価下落と直結する誤りの産物なのである。なおアメリカでは、リセッションは、全米経済研究所によって「実質国民総生産(GNP)が対前年比で2四半期以上連続して減少したとき」と定義されている。インフレは国債の負担にあえいでいる政府及び過剰債務を負っている企業・銀行には有利に働く。株も上がるかも知れない。塩漬けになっている個人預金も引き出されるかも知れない。他方、それは年金・金利生活者には不利に働く。勤労者の給与もその分引き上げられるとは限らない。さらに資本主義の原理からして、経済全体で見た実際の需要と潜在的な供給力の差を示す「需給ギャップ」が15兆円規模もある現在、市場は政府・日銀の思うようには動かないだろう。
具体的手段の可能性から見ても、インフレターゲット論は空論なのである。民間経済予測(1月3日付け『日本経済新聞』)によれば、物価(生鮮食品を除く消費者物価指数)の低下は続き、2010年度マイナス0.9%、11年度マイナス0.2%で、脱却の時期は12~13年度になりそうである。無理にインフレターゲットを設定するより、ほかの手段による実質GDP成長率(10年度3.3%、11年度1.2%予測)の引き上げに努力することが期待される。(おわり)
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(連載)物価低落にこだわらず、実質的経済成長を目指せ(1)
角田 勝彦 2011-01-07 09:52
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角田 勝彦 2011-01-08 10:50
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