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2011-05-18 10:02
(連載)大震災後の日本と世界: 悲観論には組みせず (3)
角田 勝彦
団体役員
世界の将来を左右する米中関係でも同様の進展が見られる。5月9~10日開かれた第3回米中戦略・経済対話では、米による中国の人権問題けん制などがあったものの、人民元切り上げを中心とする経済問題が主題だった。合意文書は「世界経済安定のため米中が協力する」ことを強調した。他に注目すべきは、外交・軍事当局高官が出席する「戦略安全保障対話」が初めて開催されたことで、米中の不測の衝突回避のために軍高官同士の信頼醸成を重視する考えに基づいている。さらに両国は今回「アジア太平洋地域の安全保障問題に関する新たな協議を年内に開催する」ことにも合意した。
日中関係でも、大震災を契機に関係改善があった。大震災の後、中国のネットが日本人の対応を「冷静」と絶賛したように、親日感は高まった。中国と台湾からの物的支援は大きかった。尖閣問題は変わらず存在するが、我が国も宮古島や尖閣諸島を含む先島諸島などの南西地域の防衛強化に向け陸上自衛隊の部隊配備の準備をしており、国防面では粛々と手を打つほかないだろう。政治面の友好関係が重要である。温家宝首相は5月21~22日の日中韓首脳会談で来日する際に、東日本大震災の被災者を慰問する考えを表明した。要するに、政治・軍事より経済の動きが世界の関心事になっている現在、東日本大震災はアジアを先頭とする世界の発展の大きな負担にならないですみそうである。それも日本の対応にかかっている。復旧も重要であるが、復興対策は「失われた20年からの日本復活」につなげるように、一党一派に偏しない長期的見地から構想する必要がある。
とくに重要なのは、政府が民間による発展の妨げをしないことである。この夏に実施予定の15%の節電くらいは「窮すれば通ず」で何とかなることを期待するが、無理なものもある。まず増税については、しばらく様子を見るべきである。平成22年度末時点で924兆円になる国の借金の対応を急ぎたいのは判るが、元も子も失う恐れがある。たとえばIMFは、3月下旬、震災復興のため「大胆な財政出動で、経済を下支えする」ことを日本政府に求めた。IMFはこれまで、財政再建を急ぐよう日本政府に繰り返し求めてきたが、こんどは「成長率が下がれば財政はさらに悪化する」(プラダン対日代表団長とカン日本担当課長)として、震災からの復興を最優先課題にすべきだと訴えた。
同様に、大震災が農水産業に与えた被害を思えば、環太平洋連携協定(TPP)の結論先送りは妥当な結論であろう。TPP対応型の強い農業にするのは、言うは易いが行うは難い。米通商代表部(USTR)のカーク代表も3月30日、首都ワシントンでの講演会で、東日本大震災の災害対策に追われる日本政府について「今は復興に専念すべきだ」と述べ、日本によるTPP参加判断の先送りを容認する姿勢を示した。都市型だった阪神大震災と大きく違い、東北3県で被災した36市町村のうち33市町村は、人口10万人未満の小規模な自治体で、住民の生活再建について「めどが立っていない」とする首長も多い。原発が縮小される将来、この地域が経済的に自立していくには問題がある。生活のめどが立たない復興は無意味だろう。がれき整理を含むとりあえずの復旧は急務だが、長期的復興に多少時間がかかるのはやむを得ない。政府にはせめて、功を焦って再建を阻害するピント外れの政策実施に走らないことを希望したい。(おわり)
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