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2011-10-31 06:52
野田に問われる「政治家の真の覚悟と器量」
杉浦 正章
政治評論家
「私たち政治家の覚悟と器量が問われている」と首相・野田佳彦が10月28日の所信表明演説で2度にわたって繰り返えした。ところが翌29日、全国紙全紙の社説が逆に「首相の覚悟と器量を問う」論調で統一された。野田の演説からは「覚悟も器量もうかがえない」というのである。確かに野田演説は、就任後2か月たっても「安全運転ぼけ」としか言いようのない当たり障りのない内容に留まった。とりわけ焦点の環太平洋経済連携協定(TPP)交渉参加は、1か月半前の所信表明の「しっかりと議論」が、「引き続き、しっかりと議論」に留まった。これで、普通3か月は続く政権とマスコミのハネムーンは、2か月で脆くも終わりを告げた形となった。確かに「覚悟と器量」と言う言葉を政治家が使うのなら、背景に自らの「命がけ」の気概が読み取れなければならない。リーダーたるもの、同僚議員に覚悟と器量を求める話ではあるまい。戦後、覚悟と器量をもとに首相が事に当たった大場面は2回ある。今にして思えば、いずれも国の興亡がかかっていた政治判断であった。ひとつは岸信介による日米安保条約改定であり、もう一つは田中角栄の日中国交正常化交渉である。安保改定は60年以来既に半世紀が経過しており、歴史の彼方に置くとして、まだ40年しかたっていない日中正常化を例にとろう。
TPPと比較すれば、日中復交は、「農協がTPP反対をわめいて走っている」(民主党政調会長代行・仙谷由人)程度のレベルの話ではなかった。田中にとっては、台湾との断交を意味するだけに党内極右や親台派を押さえ込み、右翼のテロ、暗殺から身を守らなければならない、まさに「命がけ」の勝負であった。「国賊・田中角栄」のビラが都内いたるところにに貼られ、右翼が街宣車を連ねて、官邸周辺でがなりまくっていた。事実、田中訪中当日に血判書つきの抗議文を懐に、猟銃で暗殺を企てた右翼の青年が、警察に逮捕されている。田中は「しっかり議論」の野田とは異なり、内閣発足当日から腹が据わっていた。政権発足の1972年7月7日夕、田中は初閣議の後の首相談話で早くも「外交については、中華人民共和国との国交正常化を急ぎ、激動する世界情勢の中にあって、平和外交を強力に推進していく」と方針を明示している。そして周辺には「俺は今が一番力の強いときだ。日中は一気にやる。党内は台湾派が多い。党議決定が難しければ、政府声明でケリをつける。今後力が弱くなれば、できるものではない。殺されるのは覚悟のことだ」と漏らしている。
就任早々が支持率も高く、一番政権の強力なときであり、その力をてこに最重要課題を処理するという判断であり、今でも通用する。野田は自らの言う「スピード感ある政治」とは、まさにこうした対応を言うことを理解していない。田中を支える外相・大平正芳もまた決死の覚悟であった。秘書に「万が一この交渉が不調に終わった場合には、自分としては日本に二度と帰る事が出来ないかも知れない」と言い残している。政治家の真の覚悟と器量いうものは、こうしたものであるべきだろう。翻って野田の姿勢と比較すれば、自らの政治理念を達成するために首相になったと言うより、「私は崖っぷち」と述べているように、手練手管を使って「民主党政権」を一日でも長引かせようというところに傾斜しているように見える。だから所信表明での「決断」を期待した全国紙各紙を「国民への説明を避けているに等しい」(朝日社説)と怒らせるのである。農協関係者や反対派議員、学者の論調をテレビの討論で聞き、つぶさに検討を加えたが、矛盾、撞着だらけであり、首肯出来るものはひとつもなかった。国論を2分している論議は、明らかに推進派の勝ちである。自民党の論客・小野寺五典の主張ですら、偏狭で聞いていられないものだった。反対派の議論は安保、日中の時の理論武装に基づいた反対論とは比較にならないほど“ヤワ”で、理念に欠け、農協などは「団体あって国家なし」の呈である。
だいたい「交渉にも参加するな」というのはどういうことか。まずは交渉に参加して、主権国家としての利益を代弁し、その主張を堂々と述べるべきだ。参加国ではアメリカに次ぐ国内総生産(GDP)をもつ日本の主張は、会議の動向を大きく左右するに違いない。交渉に参加して日本の主張を通すのが本筋の流れではないか。通らなければ、脱退すればよい。それが外交の基本だ。冒頭から述べているように、この程度の反対論は、激動の歴史から見ればちゃんちゃらおかしいのだ。これに野田が怖じ気づいているとすれば、自ら保守と任ずる野田の「器量」が問われる。歴代の「保守の首相」に申し訳けが立つまい。ここは国家の興亡がかかる場面であり、首相たる者ふらついてはいけない。いいかげんのところで党内論議に区切りをつけ、首相裁断で交渉参加を表明し、東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議で交渉参加に踏み切るべきだ。
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