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2012-01-12 15:27
(連載)米新国防戦略後の日本の目指すべき集団安全保障構想(1)
高峰 康修
日本国際フォーラム客員主任研究員
1月5日に、米国のオバマ大統領とパネッタ国防長官は記者会見を開き、国防費削減に伴う米国防戦略の見直しを発表した。その重要な柱は、二正面戦略、すなわち、二つの戦域で同時に発生した大規模紛争に勝利するというドクトリンの放棄と、国防費削減がアジア太平洋地域の防衛に影響を及ぼすことはないという宣言である。昨年8月に成立した「予算コントロール法」の規定では、このままでは、自動的に1兆ドルもの国防予算削減に直面することになる。仮に、民主・共和両党の妥協が成っても、やはり米国防費の大幅削減は不可避の情勢である。
こうした厳しい予算制約のもとでは、国防戦略が、選択と集中を迫られるのは当然であり、オバマ政権が選択と集中の対象地域として、アジア太平洋地域を選んだことは適切なことである。米新国防戦略に対しては、とりわけ、二正面戦略の放棄について、それは「弱いアメリカ」を目指すものであり、超大国の座を放棄することに繋がるという、保守派からの強い反発がある。確かに、国防費の大幅削減と相俟って、そういうメッセージを発している面はある。「アジア太平洋地域の防衛に影響を及ぼすことはない」というのは有り難いことではあるが、それにしたところで、具体的な予算の裏付けがあるわけではない。したがって、新国防戦略への保守派の批判は理解できる。
ただ、私には、「正面」という概念は古典的に過ぎるのではないかという疑問がある。冷戦期を通じて、二正面戦略は米国の軍事ドクトリンであったが、冷戦期やその直後に想定された大規模紛争と、現在あるいは近い将来の大規模紛争が同じ性質であるわけがない。現代の大規模紛争は、海空の統合作戦(エアシーバトル)が中心となり、宇宙空間やサイバースペースも戦闘空間の一部となることになろう。そして、このような大規模紛争が想定されるのは、やはり、西太平洋地域以外にない。これを、従来の二正面戦略の想定戦域、すなわち朝鮮半島と中東における大規模紛争と同視しうるかといえば、やはり否というべきであろう。
二正面戦略を残すべきだという批判に対しては、逆に三正面にする必要はないのか、という疑問があり得る。例えば、ロシアのグルジア侵攻のような事態への対応は、米国が超大国であるためには避けて通れない問題である。むしろ、「正面」という概念を残したことを批判するほうが正しいのではないかと思う。ただ、オバマ大統領の「弱いアメリカ」を目指しているとしか思えないこれまでの姿勢と、国防費の大幅削減が相俟って、米国の地位が大きく低下するのではないかという懸念は、その通りであり、新国防戦略で西太平洋重視を謳ったといっても、どれほど実が伴うかは、いささか心もとない。(つづく)
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(連載)米新国防戦略後の日本の目指すべき集団安全保障構想(1)
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高峰 康修 2012-01-13 19:40
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