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2012-05-08 13:04
(連載)スペイン経済危機の本質的原因(1)
藤井 厳喜
ケンブリッジ・フォーキャスト・グループ・オブ・ジャパン代表取締役
スペインの金融危機が再燃している。4月12日、有名な投資家ジョージ・ソロス氏は、ベルリンで講演し、「ドイツ中央銀行(ドイツ連銀)は通貨ユーロの終焉に備えた行動をとり始めている」と指摘した。つまりユーロ圏が分裂した場合にドイツが被る損失を限定するような措置を取り始めたということである。ソロス氏は、「ドイツ中央銀行がユーロ分裂に備え始めれば、誰もがこれに追随せざるを得ない。市場はその可能性を考慮しはじめている」「これは自己実現する予言だ」と語っている。現在、ユーロ危機の矢面に立たされているのは、スペインである。スペインやイタリアからは、大量の資金がドイツやオランダ、ルクセンブルグに逃避している。過去3ヶ月に限ってみても、約650億ユーロ(約6兆8000億円)が、スペインからユーロ圏内の他の国に移っている。
ユーロ圏では、域内のある国から別の国へ資金が流れると、流入先の国の中央銀行は同額の資金を流出国の中央銀行に貸し付けるルールになっている。これは通貨同盟内の収支を均衡させるための措置である。例えばスペインの預金者が、お金をドイツの銀行に預け替えると、ドイツ中央銀行は、スペイン中央銀行に同額の貸し付けを行なう事になる。そこで、各国間の貸借関係を見る事で、ユーロ圏内のどの国からどの国へ資金が流れたかを推測することが出来る。上記の数字は、貸借関係を分析する事から割り出されたものである。更に詳しく、2012年2月までの7か月間の動きをみると、ドイツ・オランダ・ルクセンブルグの資金逃避先3か国の他の中央銀行への融資残高は7890億ユーロと過去最大の水準に到達している。つまり、ドイツ・オランダ・ルクセンブルグの3か国から、イタリアやスペイン・ギリシャなどの資金流出国へ約7890億ユーロの貸し付けが行なわれたという事である。
これは、ドイツやオランダやルクセンブルグの納税者が、イタリアやスペイン、ギリシャなどの重債務国のリスクを引き受けているという事であり、債務国も債権国も、共に運命共同体になっているのである。現在、ヨーロッパの緊急融資能力は、6000億ユーロ程度しか残っていない。しかし、イタリアとスペインだけ向こう5年間の資金需要は、1兆ユーロを上回る。更に大きな資金援助を受けることなしには、スペイン経済がサバイバルする事は難しいだろう。そもそもスペイン経済が、危機に陥った原因は何であったのであろうか。2000年に共通通貨ユーロが導入された。これによって、経済が遅れていたスペイン・イタリア・ギリシャ・ポルトガルなどの南欧諸国への資金流入が始まった。経済が遅れている分だけ、経済発展の余地があるという事であり、英独仏ベネルクス3国、北ヨーロッパ諸国の潤沢な資金が、南欧諸国に一挙に流入したのである。
これがスペインでは、一大不動産建設ブームを巻き起こした。アルプス山脈の北側に位置している国の人々は、寒い冬を逃れる避寒地のリゾートとして、地中海沿岸である南欧諸国を訪れる事を好む。北部ヨーロッパの人間は、余裕さえあれば、地中海岸に別荘を持ちたいと望んでいる。この潜在的需要に目を付けて、一大不動産建設ブームがスペインで起きたのだが、これがたちまちバブル化してしまった。その後、丁度2008年9月にアメリカでリーマンショックが起きた。これが世界的な信用収縮の連鎖反応を起こし、南欧諸国、なかんずくスペインは、不動産建設ブームのバブル崩壊に襲われた。このバブル崩壊が、スペインの景気を悪化させ、銀行の不良債権を急拡大し、政府をディフォールトの寸前にまで追い詰めたのである。(つづく)
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