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2012-09-03 09:52
(連載)オバマ政権のアジア・シフト政策は日本の国益に反する(1)
河村 洋
外交評論家
オバマ政権が外交政策の重点をイラクとアフガニスタンからアジア太平洋地域に移すと表明した際に、日本国民は急速に軍事力を増大する中国への懸念からそれを大歓迎した。しかし、それはあまりにナイーブなように私には思える。政治家やオピニオン・リーダをも含めた日本国民に広く行き渡っている見方とは逆に、私はオバマ政権によるアジア重点化政策は以下の3点から日本の国益に反すると信じている。アジア重点化政策は軍事的プレゼンスの移動ではなく、米軍自体の大幅な縮小を誤魔化すためのものである。また、この政策は、アメリカ外交の重点が自由民主主義国から新興経済諸国に移ることをも意味する。最後に、日本の政策形成者達にとって、アジア化したアメリカがもたらす予測不能なストレスは、アングロ・サクソンを基盤としたアメリカよりも、はるかに難しい相手となるであろう。
まず、軍事力の縮小について述べたい。本欄への5月23~25日の拙投稿「思った以上に深い、鳩山外交が日米同盟に残した傷」(3回連載)では、アメリカン・エンタープライズ研究所のマッケンジー・イーグレン常任フェローの論文を引用し、アジア重点化政策が軍事戦略的には中身がないと論じた。アジアへの関与の強化を唱えてはいるものの、国防費の大幅な削減によって海軍と空軍を中心に米軍自体は急激縮小されることとなった。オバマ政権はソフトウェアの向上を強調しているが、中国の急速な軍拡に対抗するには、充分な量のハードウェアがなければ意味がない。オバマ政権のアジア重点化政策の実態は、それがASBC(エア・シー・バトル・コンセプト)の重視も意味するという戦略国際問題研究所の分析とは全く矛盾するものとなっている。
確かに、中国の海空軍力強化によって米軍の人員装備はアジアに移転されることになった。しかし、国防予算削減のために、中国のA2ADに対するアメリカの対抗能力の強化には大きな制約が課されている。外交政策イニシアチブのロバート・ザラテ部長は、レオン・パネッタ国防長官が5月27日のABCテレビとのインタビューで国防予算の抑制がアメリカの国防に致命的な制約となっていると認めたことに対し、「それによってアジアでの軍事バランスを保とうというアメリカの戦略が空洞化しかねない」という深刻な懸念を述べている。さらに民主党のハリー・リード上院議員による「抑制は苦い薬ではあるが、赤字削減のために痛みと責任を分かち合うためにはバランスのとれた方策である」という発言を批判している。それにも増して問題なのは「同盟国も敵対国もアメリカにはアジアで大国としてとどまり続ける能力と意志があるのかを疑い始めた時期に、中国の台頭が認識されるようになった」ことである。
ザラテ氏が最後に言及した点はオバマ政権の外交政策の根本的な問題と深く関わっている。共和党の単独行動主義とアメリカ例外主義へのアンチテーゼとして登場したバラク・オバマ氏は、就任直後にプラハとカイロでこれまでのアメリカ外交を謝罪する姿勢で宥和的な演説を行なった。それはまるでオバマ氏が超大国としてのアメリカの地位には必ずしも固執していないかのように思われた。こうした観点から、軍事戦略としては意味をなさないアジア重点化政策の真の意味を考え直すことが必要である。(つづく)
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