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2013-07-23 12:20

(連載)モルシ政権の失政とそのトルコへの影響(2)

河村 洋  外交評論家
  国際社会はそうした文民政権の失敗と軍事独裁という悪しき循環に対してどのように対応すべきだろうか?ブルッキングス研究所のロバート・ケーガン上席研究員は7月6日付けの『ワシントン・ポスト』紙での論説で「エジプトで軍部が選挙で選ばれた政府をいとも簡単に政権から引きずり降ろせるということは、真に永続的な権力は軍部が掌握していることを意味する。軍が民主的に選ばれた政府を一度でも引きずり降ろせるということは、別の政権が誕生してもまた引きずり降ろせることになる。そうしたサイクルに歯止めをかけるために、アメリカが暫定政権に対して早期の政権移譲を行うように援助の停止を含めたメッセージを送るべきだ」と主張する。

 ケーガン氏の処方箋によって軍事政権の支配が終われば、アメリカと国際社会は主としてグラスルーツのエンパワーメントによって意識の高い政策論争を活発化させるなどのソフトパワーの行使ができる。

 エジプトと同様にトルコも戦後にクーデターを繰り返してきた。しかしトルコのAKPはエジプトのムスリム同胞団よりも国家統治の経験と能力がある。さらに経済の好況によって、イスラム・ポピュリズムを嫌う富裕なエスタブリッシュメントからもある程度の支持を得ている。イスラム主義が創立背景にありながら、エルドアン党首のAKPは自らがキリスト教民主党のようなヨーロッパの保守政党と同じ立場だと訴えようとしている。

 エルドアン内閣は街頭での市民の抵抗運動に強い姿勢で臨んでいるが、人権と法の支配に関してはEUのコペンハーゲン基準がAKPの過激化と人権侵害を抑えるであろう。それらのビルトイン・スタビライザーが機能せず、軍部が事態の不安定化を許容できなくなってくると、トルコも第二のエジプトとなってしまうだろう。そうした事態になれば、中東の民主化に向けたこれまでの取り組みが後退してしまう。これはテロとの戦いに大きなマイナスである。よって、アメリカと国際社会はカイロが円滑かつ迅速に民主主義に移行するように働きかけねばならない。(おわり)
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