ホーム
新規
投稿
検索
検索
お問合わせ
2015-01-05 10:54
(連載1)多元化世界と日本の針路
鍋嶋 敬三
評論家
2015年の世界は「米国一極」から絶対的な力を持つ存在のいない「多元的世界」に移りつつある。政体も日米欧のような自由・民主主義社会から、中国やロシアのような権威主義体制、北朝鮮に代表される独裁国家のようにさまざまだ。グローバル経済が地球全体を覆う中で経済、社会の在りようも一律には論じられない。国際連合、世界銀行、国際通貨基金(IMF)に代表される第2次世界大戦後の米国主導の国際秩序は緩やかに崩れつつあるのが現状だ。相対的に経済力が低下している西側世界に対して中国、インドなど新興国の勢力伸長が著しい。ロシア、ブラジル、南アフリカを加えたBRICSに代表される新興国の発言力が強まるにつれ、新たな国際秩序作りをめぐる主導権争いが熾(し)烈になる。中国提唱の「アジア・インフラ銀行」の設立をめぐる動きがその一つである。次の10~20年間は西側に対する新興勢力とのせめぎ合いが激しさを増し、さらなる世界の不安定化を加速する危険は無視できないだろう。
新たな世界秩序の枠組みをめぐるあつれきは紛争の多発となって現れ、多くの犠牲者、難民を生み出した。米国は「世界の警察官」の役割を放棄した。20世紀を特徴づけたPax Americana(米国による平和)は終わり、今は世界の「兄貴分」に過ぎない。世界でにらみをきかす「盟主」の存在がなくなれば、力の拡散が勢いを増し、覇権争いが激しくなるのは自然の流れである。中国の東シナ海、南シナ海での領土拡張を目指した執拗な攻撃的手法、ロシアのクリミア併合とウクライナ東部の自国勢力圏内への取り込みの動きなどは、その具体的な現れである。中東における「イスラム国」勢力の伸長は国境を越えてテロ活動する組織として新たな脅威になっている。世界の不安定化は地域安全保障の枠組みを欠くアジアや中東で特に顕著である。
日本は多元化世界と不安定な国際情勢に直面してどのような針路を取るべきか。「新たな国際秩序」への基本はルール作りである。新興勢力の声をも反映したルール作りに当たって、リーダーシップを持って参画しなければならない。日本は明治維新以来140年余の間に西欧の資本主義、自由主義、議会制民主主義制度を採り入れながらも、欧米とは異質の社会・文化的基盤を活かしながら先進国として発展してきた。21世紀の多元的世界において、日本の経験は先進国以外の「その他の国々」の発展の参考になるはずである。日本は新たなルール作りに当たって合意形成のため、西側世界と新興勢力との架け橋になり得る立場にある。
そのような国際的な役割を担うにしても、まず日本は経済的に強靱(きょうじん)な体質に自らを改造しなければならない。米国の衰退の最大の原因は「世界の警察官」として軍事的関与の手を広げすぎ、それが国力を疲弊させたことに尽きる。度々、繰り返される政府機能の不全がそれを象徴する。中国が米国債の最大の購入者であるという現実が、米国の対中政策の手足を縛る。日本は人口減少、急速に進む高齢化による社会保障費の重圧、円安のメリットも消滅する経済産業構造の改革など巨大な課題が山ほどある。安倍晋三首相がアベノミックスの成長戦略を迅速に確実に遂行する指導力を発揮できるのは、12月の総選挙で安定多数を得た今をおいてない。(つづく)
>>>この投稿にコメントする
修正する
投稿履歴
(連載1)多元化世界と日本の針路
鍋嶋 敬三 2015-01-05 10:54
┗
(連載2)多元化世界と日本の針路
鍋嶋 敬三 2015-01-06 10:37
一覧へ戻る
総論稿数:5546本
公益財団法人
日本国際フォーラム