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2015-10-29 13:05
(連載2)アメリカ海軍航空戦力の進化と課題
河村 洋
外交評論家
2006年にF14トムキャットが退役してから、アメリカ海軍には航空優勢および迎撃用の戦闘機がない。冷戦後の予算的制約もあって、アメリカの国防政策は戦闘機のコスト・パフォーマンスを重視するようになった。それによってアメリカ海軍の空母打撃群は、大国間の競合時代への逆戻りで敵のA2AD能力が強化されると、自らの防衛に不安を抱えるようになった。国防の有識者達はアメリカが「歴史の終わり」に安心しきったことを批判している。『ナショナル・インタレスト』誌のデーブ・マジャムダール(Dave Majumdar)国防編集員はさらに厳しく「ソ連崩壊から25年間、ペンタゴンは航空優勢を当然視するきらいがあった。ドナルド・ラムズフェルド氏もロバート・ゲーツ氏も航空戦力を重視していなっかった」と評している。さらに「FA18E/FもF35Cも、ロシアのスホイ30SMやスホイ35S、中国のJ11DやJ15といった敵の戦闘機に対して、戦闘行動範囲、加速力、飛行高度、大型ミサイル搭載能力からみても撃退には心許ない。さらにロシアのPAK-FAや中国のJ20といった次世代の戦闘機はステルス性とスーパー・クルーズ能力を備えている」と述べている。
マジャムダール氏の分析で注目すべきは「特に敵の航空戦力が脅威となるのは西太平洋においてである。海軍は将来にスーパー・ホーネットと交代するFAXXについて、F14タイプの航空優勢および迎撃用の戦闘機を模索しており、それは大型のセンサー、スーパー・クルーズ能力、そしてミサイルの他にHPM(高出力マイクロ波)およびレーザー兵器搭載のために余裕のあるスペースを備えることになろう」との見解で、中国のA2ADの脅威が重大になっていることがわかる。しかし艦隊防空は現在の問題であり、それほど遠い将来のことではない。新アメリカ安全保障センター上級研究員のジェリー・ヘンドリックス退役海軍大佐は、海軍航空隊の現状をさらに厳しく「現在のアメリカ空母機動部隊では戦闘機の行動半径が短すぎるので、中国のDF21D対艦弾道ミサイルの射程範囲外まで退かねばならない」と指摘する。さらに「DF21の射程距離は1,000海里に達するが、スーパー・ホーネットの作戦行動半径は空中給油がないと空母から496海里に過ぎない。それが1956年時点の空母艦載機だったF8クルーセイダーやA4スカイホークの1,210海里からすれば半分にも満たない。長距離の任務が想定されているF35Cでさえ、実際の戦闘行動半径は550海里に過ぎず、スーパー・ホーネットより50海里長いだけである。それでは当然ながら前任のF14戦闘機およびA6攻撃機よりもはるかに短い距離となってしまう」とまで述べている。ヘンドリックス氏の分析は重要で、戦略的な重点は空対空の戦闘から地上攻撃、そして電磁戦やサイバー戦に移るかも知れないが、戦闘機の基本的な能力は充足させるべきである。さもなければ地上基地を利用できない場所で空母が前線航空基地の役割を担うことはかなわなくなる。
スーパー・ホーネットはアビオニクス、センサー、搭載兵器で配備以降の時代の技術でアップデートされてはいるが、やはり旧ホーネットの大型版に過ぎない。スピードの遅さ、加速性の悪さ、そして航続距離の短さといった旧型から受け継いだ本質的な欠点の解決は容易ではない。人間なら努力で何とかできるかも知れないことでも、機械のパフォーマンスは元からの設計に大いに依存する。スーパー・ホーネットもF35も航空優勢のために設計されていないので、F14やF15とは全く違った乗り物である。敵のA2ADの中には地上基地から発射されるミサイルより遠方に達するものもある。中国のH6K戦略爆撃機はアメリカの空母打撃部隊に長距離精密攻撃を行なうことができる。冷戦期のアメリカ海軍はソ連のTu22バックファイアによる飽和攻撃への対抗していたこともあり、航空優勢は今日では重要度を増している。イージス艦による艦隊防空が完全になるのは、そうした水上艦と防空戦闘機のチームワークが機能している時である。さらにレーザー兵器やレールガン(電磁砲)は現時点では未来の技術である。
アメリカ海軍が多くの戦略概念を作り上げているのは、シューメーカー海軍中将とデービス海兵隊中将がCSISの討論会で語った通りである。しかし戦略と技術の変遷があろうとも、基本的な点は見過ごしてはならない。例えば海軍が打ち出す安全性の考え方には矛盾がある。危険なISRと低空攻撃には無人機を使用するということであるが、確固とした制空権がなければ艦隊全体が危険にさらされる。海軍の航空戦力の現状は、第二次大戦直後と同様に政策的な誤りによってもたらされた。まず、アメリカの国防政策形成者達はソ連崩壊直後の納税者の要求に安易に妥協してしまい、冷戦期の軍備を大幅に削減して一部は「費用効果の高い」ものに交代された。F35はそうしたコスト・パフォーマンス過剰重視の典型例で、ペンタゴンはスケール・メリットを優先してしまった。F111と同様に統合打撃戦闘機は異なる軍組織の要求の違いを超えて共通の設計を採用している。しかし共同開発計画が良好に機能するのは、全ての当事者が目的を共有している時である。アメリカ海兵隊、イギリス海軍および空軍にはハリアーの後継機が必要だが、アメリカ空軍および海軍はSTOVLを必要としない。そうした不一致があれば、この計画がこれほど遅延して価格高騰にみまわれるのも不思議ではない。アメリカ海軍航空隊は制空権と攻撃能力を再強化して歴史からの休暇より目覚めねばならない。(おわり)
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河村 洋 2015-10-28 21:10
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河村 洋 2015-10-29 13:05
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