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2015-12-01 13:15
EU加盟を熱望するトルコと米戦略
山田 禎介
国際問題ジャーナリスト
トルコ戦闘機によるロシア軍機の撃墜事件で、北大西洋条約(NATO)加盟国によるトルコ支持の輪が広がっているが、高名な中東学者が「(かつて)トルコはよほどNATOに入りたかったんでしょうね」と、いま同盟の”恩恵”を受けるトルコについて、さらりと述べた。だがトルコのNATO入りはそんな簡単なものではなかった。混迷する欧州・中東の現状については、中東専門家だけでは語り尽くせないものがあることを感じる。NATO有力メンバーのトルコ、さらにトルコの欧州連合(EU)加盟問題。日本ではあまり深くとらえられていないこの問題について、触れてみたい。
パリ同時多発テロ容疑者たちのアジトであるベルギー・ブリュッセルのアラブ街モーレンベーク。このアラブ街の存在は、NATO加盟国トルコとも微妙に関わっている。筆者のベルギー駐在の経験の一部だが、ブリュッセルのNATO本部からオフィスに戻るのにタクシーを利用した。その何度に一度かはトルコ人ドライバーで、筆者が日本人と分かると「トルコは日本が好きだ」とお世辞を言うので、チップをはずまざるを得なかった。NATO本部詰めトルコ軍高級将校と事務スタッフがおり、街には青果商、魚屋、自動車修理工場とトルコ人の職域が広がる。いまやアラブ街モーレンベークには、中東全域の様々なイスラム教徒が存在するが、その原点にはNATO本部が存在し、NATO加盟国トルコの影響がある。それはフランスのアラブ街が地中海沿岸マグレブ(リビア、チュニジア、アルジェリア、モロッコなど)の移民と子孫から成立したこととは事情が違う。
ところで冷戦時代の米国のソ連封じ込め政策の申し子がトルコのNATO加盟(1952年)だ。第二次大戦後、ギリシャとトルコは共産主義が勢力を伸ばし、それを危惧する米国が、あえて犬猿の仲のギリシャ、トルコを同時加盟させた。反米、反トルコ大暴動の起こったギリシャだが、米国が大量援助のアメ玉でなだめた。またトルコは当時のソ連の脇腹に位置する戦略的位置にあり、宗教を超えて同盟に組み込みたいのが米国だった。決して「(最初から)トルコがNATOに入りたかった」わけではない。
EUについては、これとは逆にトルコは長年、入りたがってきた事情がある。いまEUは、欧州に殺到する難民問題でのトルコの協力と引き換えに、これまで中断してきたトルコのEU加盟交渉を再開することで合意したが、これもまた戦略的アメ玉であろう。EUは別名、キリスト教同盟。トルコを加盟国にすることには、イスラム教、また現加盟国との比較では、極端な人口の多さという難点が重なる。かつて筆者はブリュッセルでEU官僚から「実はトルコの加盟交渉は、天文学的に長く、長く、引き伸ばし、結局はあきらめさせるのだ」と聞いた。これは日本も気をつけなければならない、ある種の「ビナイン・ネグレクト(いんぎんな無視)」という欧州外交の得意技である。米国は地政学的位置からトルコをNATOに加えたが、ロシアと接するノルウェーは、1949年以来の原加盟国メンバー。ところがノルウェーはEU入りを長年、ためらっている。トルコ、ノルウェーの事情は対照的だが、両国とも米国の強い影響下にあるのは、なにやら意味深にもみえる。
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