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2016-02-03 07:02
「トランプ旋風」が早くも失速気味の米大統領選
杉浦 正章
政治評論家
クリント・イーストウッド主演の名画「マディソン郡の橋」の舞台アイオワ州における民主、共和両党の党員集会は、その後の大統領予備選挙に大きな影響を及ぼすのが通例だ。アイオワとこれに続くニューハンプシャーで敗北して大統領になれたのはビル・クリントンだけであり、序盤を制するものが選挙を制すると言われてきた。今回の場合はどうか。正直言って、まれにみる見通しのしにくさだ。それでもあえて見通せば、共和党はトランプ旋風が失速の流れである。民主党は僅差で勝った前国務長官・クリントンがたとえ僅差でも勝ちは勝ちで、民主党候補となる公算が強い。注目すべきは共和党3位の若手上院議員ルビオだ。映画「馬鹿が戦車でやってくる」そっくりのトランプが失速したのは、アイオワ州民の知性を示すものであり、この傾向は今後も持続する可能性が高い。「トランプ現象」は、有権者がいわばテレビでアチャラか喜劇を見て喜んでいるのと同じで、人気がそのまま投票行動につながったのは日本の横山ノックの大阪府知事当選くらいのものだろう。実際トランプの「奇行」は、「いくら何でも大統領候補が」という感じを強くさせるものだ。頭髪がかつらだという風評が立つと、女性2人にバケツを持たせて頭から水をかけさせて、かつらでないことを公開検証するといった具合だ。
その発言に到っては、そこいらの床屋談義の爺さんに輪をかけた破天荒ぶりで、発言すればするほど知的レベルの低さを露呈した。「メキシコ国境に万里の長城を築き、不法移民を阻止する」「すべてのイスラム教徒の入国を禁止する」など、人種差別と全体主義思想に貫かれており、米国憲法に違反する。日本に関しても「日本からの自動車輸入は不公平だ」と述べれば「日米同盟は不平等だ」と指摘する。日本車は米国内で作られていることを知らない。安全保障に関しても無知丸出しだ。当選したら日本にとっては「悪夢の大統領」となることは必至だ。トランプを米軍の最高司令官である大統領に選出して、核のボタンを手渡したら、世界は崩潰する危機に直面するということになりかねない。要するに、発言はスローガンを声高にしゃべるだけの「スローガニズム」の極致と言うべきであり、政策の裏付けなど皆無と言ってもよい。
支持率は全候補の中でもトップを走るが、トランプの場合支持率と有権者の投票行動は一致しない。最後には有権者は「核のボタン」に思いが到り、別の候補に投票する傾向を見せたのだ。こうして「トランプ旋風」は今後例外はあっても大勢としては空回りする流れとなろう。多くの州で同時に予備選挙が開催される3月1日のスーパーチューズデーが天王山となる。アイオワ州における共和党党員集会はクルーズ27.7%、トランプ24.3%、ルビオ23.1%の得票順だが。問題はクルーズだ。その主張は時にはトランプを上回る過激さであり、理性に乏しい。共和党内で嫌われており、アイオワ州知事が「クルーズが勝つのだったらトランプの方がましだ」と漏らしたと言われるほど。クルーズはオバマケアに反対して政府閉鎖事件を起こした張本人の1人だ。むしろ選挙の玄人の注目が集まっているのはトランプに迫ったルビオだ。若手の上院議員で、共和党主流に属し、党内の人気も高い。中国や北朝鮮とは対峙の姿勢を示しており、日本の尖閣諸島についても「日本のもの」と断言している。本人は「私が指名されたら、民主党がクリントン氏であっても、サンダース氏であっても、必ず勝てる」と発言しており、今後の台風の目だ。
一方、民主党はクリントン49.9%、サンダース49.6%でクリントンの辛勝だった。サンダースが予想外の票を集めたのは、公立大学無償化、国民皆保険、富裕層への課税強化など若年層向けのキャンペーンが成功した結果だ。しかし、本人が、米国では毛嫌いされる傾向がある「社会民主主義者」を標榜しており、国民的な人気には乏しい。年齢も74歳と高齢であり、体力的に今後8年米国を引っ張って行けるか疑問だ。やはり、メール漏洩事件などで決定的な事実が表面化しない限り、クリントンが民主党候補の本命となる公算が強い。また、ニューヨーク・タイムズの報道によると、億万長者で前ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグが独立候補として米大統領選への出馬を検討している。現在の候補者の顔ぶれならば、勝機があるかもしれないと、考えているという。同紙によると3月初めまでに決断すれば、全50州の予備選に間に合うため、前市長はこれを決断の期限に定めているという。いずれにせよ、大統領選の行方には“魔物”が潜んでいる可能性もあり、11月8日の投票日まで気を許すことは出来ない展開となろう。
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