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2016-06-01 12:58
(連載1)安倍首相の北方領土「新アプローチ」とは何か
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
伊勢志摩サミットを前に、5月6日に安倍首相がソチを訪問してプーチン大統領と首脳会談を行った。注目されたのは北方領土問題の解決に向けて首相が述べ、プーチンも同意したとされる「新アプローチ」だ。5月20日に、プーチンはソチで記者会見を行い、北方領土問題に関する質問にも答えた。それについて、翌日の朝日新聞はモスクワ特派員の記事として「ロシアのプーチン大統領が20日、今後の日本との平和条約交渉の中で北方領土問題を話し合う考えを明言した。ロシアでは昨年来、『日本とはいかなる交渉も行わない』(モルグロフ外務次官)、『平和条約と領土問題解決は同義ではない』(ラブロフ外相)という発言が相次いでいたが、大統領自ら柔軟姿勢を示した」と報じた。これはプーチン発言のポイントともいうべき強硬面を無視して「柔軟姿勢」を強調しており、明らかに誤解を招く記事である。この強硬発言は、ソチでの日露首脳会談の後だけに、むしろこちらを問題とすべきだ。
この報道では、プーチンが北方領土問題に関して、ラブロフなど露外務省の硬い姿勢と対比されて、柔軟姿勢を示したことが強調されている。ロシア側はこれまで日本に対し、「難しい問題を解決するためにこそ、経済その他の分野で日露の協力関係を発展させて、両国間に良好な雰囲気を作り出すのが第一である」と主張してきた。経済などの協力を最優先することを求め、領土問題の解決は事実上棚上げしたが、それでも論理的には経済協力と領土問題解決は切り離していなかった。そして最近は、露外務省は領土問題の存在をも否定する強硬論も出してきた。では、プーチンはほんとうに経済協力だけでなく、朝日報道のように北方領土交渉も重視する「柔軟姿勢」を示したのだろうか。
大統領府のサイトに公表されているプーチンの記者会見を見ると、プーチンの実際の発言の意図は、明らかに全く別のところにある。プーチンはロシア人記者の「領土問題での対話の継続は、ロシアがわが国の島をより高値で売るための取引だとの噂があるが」との質問に対し、(領土は)一切売らないと否定している。また、日本との対話に関しては、「平和条約締結も含まれ、その文脈において領土問題も討議される」と述べている。続いて、「貿易・経済面での協力と領土問題という、2つのテーマを分離することにあなたは成功したのか」との問いに対して、「一方を他方と結びつけない」と2回も強調して述べている。
プーチンは質問者が「領土問題」と述べているので、「平和条約の文脈で領土問題も話す」と答えている。たしかに、領土問題の存在そのものを否定する最近のロシア側の暴論を考えるとこの発言は無視できないが、ただこれは長年ロシア側も平和条約交渉の前提としてきた当たり前のことを言っただけだ。むしろロシア側の暴論によって、日本政府の対露協力姿勢に白けてしまっている日本世論を考慮した、意識的発言と見ることも可能だ。(つづく)
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