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2017-08-31 18:05
(連載2)マクロン大統領と西側同盟内でのフランスの地位
河村 洋
外交評論家
マクロン氏が官僚、実業界、そしてオランド政権の経済相という経歴を積み重ねたことを考えれば経済重視は予期されたことであり、彼の内政および外交政策の全体像を理解する必要がある。パリ政治学院(シアンスポ)のザキ・ライディ教授は「マクロン氏の外交政策にはまだ明確な目標はないが、外交での成功の鍵は国内経済になる。前任者のフランソワ・オランド氏は国内経済が良くなかったために、国際舞台でのフランスの地位を高められなかった」と論評している。マクロン氏は経済相として行なった経済改革をさらに進めるために大統領選挙に出馬した。まずマクロン氏の計画では、労働基準の撤廃による価格引き下げ、生性向上への刺激、経済的柔軟性の強化が取り上げられている。そうした規制緩和とともに、企業減税による国際市場でのフランスの産業の競争力強化も視野に入れられている。しかし真に問題となるのは、そうした国防費の急激な削減がフランスの国益に合致しているのかということである。ドイツ・マーシャル基金のマルティン・クエンセス氏はドイツ・マーシャル基金のマルティン・クエンセス氏は「マクロン氏は激しい抗争に勝ちはしたものの、人望厚かったドヴィリエ氏を下野させた代価は大きい。政策形成の過程で大統領から無下にあしらわれた軍部では自分達の職務に対する士気が下がり、それによって安全保障の死活的情報を大統領に伝えることを躊躇するようになるかも知れない」と評している。フランス国防省所属戦略問題研究所のジャンバプティス・ビルメール所長は「フランスにはヨーロッパ大西洋圏外にもシリア内戦、サヘル地域のテロ、リビアの安定、中国の海洋進出、北朝鮮の核の脅威といった安全保障上の重要課題がある。さらにロシアの脅威と国内テロへの対処の他に、核兵器の更新近代化もしてゆかねばならない」と主張する。フランスは国家安全保障でこれだけ多くの課題に対処できるだろうか?もはや問題となるのはトランプ氏ではない。ともかくマクロン氏は「財政赤字が解決すれば国防費を増額する」とは言っている。
現在の国防費削減案は装備が主な対象となっているが、それによってフランス軍は特に戦力投射能力の面で長期にわたる悪影響を受けかねない。中東とアフリカにおける対テロ作戦での要求水準に鑑みれば、フランスにはより多くの戦車、装甲車、大型輸送機が必要となる。こうした問題はあるが、マクロン氏は中東とアフリカでの対テロ作戦に積極的な姿勢を示している。ドヴィリエ大将の辞任を受けてマクロン氏が統合参謀総長に任命したのは、マリでEU訓練部隊を指揮したフランソワ・ルコワントル陸軍大将である。国防費の削減はあってもフランスはアフリカでのテロとの戦いに4千人を派兵し、他のヨーロッパ諸国もこれに加わるように要求している。しかしマクロン政権が約束通りに翌年からの国防費の再増額を果たせないようなら、そうした訴えも偽善的に思われてしまう。いずれにせよ国防支出を再び増額できるほど経済が好転するのがいつになるのかは不透明である。よってフランスは西側同盟の中で微妙な立場にある。
マクロン氏がそうした苦境を解決するための選択肢の一つはイギリスとの国防連携の強化であり、これにはブレグジットも関係ない。『デイリー・テレグラフ』紙7月31日付けの報道では、最近のウィキリークスが傍受したマクロン氏のメールのやり取りからによると「フランスはEUによるCSDP(共通安全保障防衛政策)を推進すべきか、それともヨーロッパ諸国では国防に最も積極的なイギリスとの軍事提携を維持すべきかを検討している」という。非常に重要なことに「マクロン氏はドイツ主導の欧州統合軍については同国が合同軍事計画に充分な資金を捻出しないことから懐疑的である」とのことである。いわば、ドイツはフランスにとって財政的な制約に関して必ずしも頼りにならないのである。ヨーロッパ大西洋圏外ではフランスはイギリスとの方がより多くの利害を共有している。中東では両国ともそれぞれがUAEとバーレーンに海軍基地を保有し、アメリカがアジアに兵力を差し向けた場合には英仏で力の真空を埋めようとしている。またアジアではフランスはイギリスとともに南シナ海での航行の自由作戦に参加している。
そうした諸事情はともあれ、外交政策への取り組みの成否に大きな影響を及ぼすには内政である。現在、フランス国内でのマクロン大統領の支持率は急激に落ちている。不人気の要因の一つには財政規律重視が挙げられる。予算削減は単なる赤字削減ではない。これは政府による公共支出と規制で成長がクラウディングアウトされた民間部門の活性化を意図した政策でもある。しかし財政規律重視は本質的に不人気な政策である。特に軍、教職員、地方自治体が歳出削減を激しく非難した。ドヴィリエ氏の辞任は国防問題を超えて大きな影響を及ぼしている。さらに、マクロン氏の減税と経済自由化は格差を拡大させる政策だと見なされている。それ以上に問題視すべきは、共和国前進のマクロニスタが若く経験に乏しいということである。第5共和制においてフランスの政治家のほとんどはENA出身者であるが、マクロニスタは起業家で占められている。彼らの政府での経験不足がフランスの政治を混乱させている。皮肉にもマクロン大統領はイデオロギー上で正反対の立場にあるトランプ大統領と同じ困難に直面している。マクロン氏は鮮烈なデビューを飾ったが、現在の共和国前進には彼のリーダーシップを再建するためにも、トロイ戦争の老将ネストルのような存在が必要である。マクロン大統領の政策顧問であるジャン・ピサニフェリー氏はこの役割を果たせるだろうか?(おわり)
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