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2017-10-12 17:52
(連載1)北朝鮮の「国連追放」は可能か
六辻 彰二
横浜市立大学講師
9月18日、米上院外交委員会のガードナー議員は、中国など20ヵ国に対して、北朝鮮との国交を断絶するとともに、北朝鮮を国連から追放するために協力することを要求しました。水爆実験やICBM打ち上げを続ける北朝鮮に圧力を強める手段として、「北朝鮮の国連追放」の必要性を強調しました。9月3日の水爆実験以降、スペイン、メキシコ、ペルー、クウェートの4ヵ国が北朝鮮大使を国外退去処分にするなど、同国への外交圧力は強まっています。「国連からの追放」は「一人前の国家としては扱わない」というメッセージであり、北朝鮮に行動を改めさせるための外交圧力としては、恐らく最も強いものと言えるでしょう。ところで、「国連から加盟国を追放すること」は可能なのでしょうか。また、それを米国政府ではなく議会が提案したことには、どんな意味があるのでしょうか。
国連加盟国が国連の義務に違反している場合、それを止めさせなければ、国連そのものの権威も失墜します。国連内部の秩序を回復すると同時に、問題行動をとる国に制裁を加える手段として、国連には「権利停止」と「除名」の制度が定められています。このうち「権利停止」は、加盟国としての立場は否定されないものの、加盟国としての権利を制限されるもので、「部分的権利停止」と「一般的権利停止」の二種類があります。まず「部分的権利停止」は、分担金の支払いが遅滞している国などに対して、国連総会での投票権を停止するもので、その決定は国連総会で行われます(国連憲章第19条)。この処分を受ける国はしばしばあり、2017年9月7日の国連総会は分担金支払いの遅滞を理由にギニアビサウやコモロなどアフリカ4ヵ国の総会での投票権を停止しています。
次に「一般的権利停止」は、加盟国の資格そのものを一時的に停止するもので、より厳しい措置です。国連憲章第5条では、「安全保障理事会の防止行動または強制行動の対象となった加盟国に対して、安保理の勧告に基づき、総会が加盟国としての権利および特権を停止できる」と定められています。ただし、これに沿って加盟国としての権利が停止された事例は、ほとんどありません。例えば、かつて南アフリカは、その白人政権による人種差別的な体制への経済制裁と連動して、国連での代表権を否定されました(1974~1994)。しかし、これに関して国連は「有色人種の政治参加を認めない白人政権が南アフリカの正統な政府であるか疑問であるため」の措置と説明し、公式には「権利停止」の問題として扱いませんでした。「部分的権利停止」と比べて「一般的権利停止」が滅多にないことは、後者がより厳しい措置であるがゆえに加盟国が慎重に判断するからだけでなく、前者との手続きの違いにも原因があります。それぞれの手続きを比べると、「部分的権利停止」が国連総会の決議のみで実施されるのに対して、「一般的権利停止」は総会での決議に「安保理の勧告に基づき」という条件が付きます。つまり、より厳しい措置である「一般的権利停止」の場合、安保理で決議が通らなければ、総会だけでこれを決定することは困難なのです。
ところで、国連総会では全加盟国の多数決によって物事が決定されるのに対して、安保理では五大国が拒否権をもち、米英仏中ロのいずれか一国でも反対すれば、事が決しません。そのため、東西がほぼ無条件に対立していた冷戦時代、米ソによる拒否権の応酬により、安保理はほとんど何も決めることができませんでした。これは安保理の勧告が必要な「一般的権利停止」の事例がほとんどないことの大きな背景になったといえます。南アフリカの場合、東西冷戦の主戦場でなく、さらに人種差別という国境を超えた問題が理由であったため、米ソの対決は他の場合より「まし」で、まだしも制裁の対象になり得ました。しかし、それでも白人政権と近い関係にあった米英仏が制裁に消極的だったことから、実質的には「一般的権利停止」であっても公式には「一般的権利停止ではない」という苦しい説明に行き着いたのです。(つづく)
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