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2019-04-04 13:57
(連載2)ロシアの対欧州・中東戦略から学ぶべきこと
河村 洋
外交評論家
また日本はロシアの中東での地政学戦略からも教訓を得られる。クレムリンはテロとの戦いにも地域秩序にも全く関心はない。プーチン大統領にとっての優先事項は熾烈なパワー・ゲームの中でロシアの力と影響力を最大化することである。だからこそシリアのアサド政権を支援してソ連時代からの海軍基地を確保しようとしている。またロシアは敢えて矛盾する政策も採っている。イランはロシアにとって中東で最も緊密なパートナーと言えるが、その一方でイランの戦略的競合国であるサウジアラビア、そして域内主要国のトルコとカタールにもS-400地対空ミサイルを輸出している。実のところクレムリンはイランとサウジアラビアの勢力均衡に気を配っている。両地域大国は自国の影響力を競い合っている。シリアではロシアはイランとともにアサド政権を支援しているがレバノン、イラク、イエメンでは状況は変わり、クレムリンはこれらの国ではサウジアラビア寄りの民族および宗派集団の支援さえ行なっている。日本はそのように冷徹な地政学を念頭に置くべきである。東アジアでは親米の日本をサウジアラビアに、反米の中国をイランに見立てることができる。プーチン政権下のロシアが日本のために中国の抑えになると期待するなど、あまりにも甘い考え方である。
ロシアが国際政治の熾烈な現実に基づいて行動する一方で、少なからぬ日本人が「文化的ロマンティシズム」に囚われている。彼らが言うには日本はアジアの一国としてロシアとの誇りある自主独立の外交を目指すべきで、欧米諸国とは一線を画すべきだということだ。何とも勇ましい限りだがロシアがグローバルな規模ではどのような行動原則に従っているかをほとんど考慮していないようでは、彼らのナショナリズムには中味も何もない。彼らが言うように日本の地理的な位置、民族および文化の上でのアジア性、欧米とは独自の政治文化的風土は見過ごせないが、そのように単純な感情論は欧米の極右と同様の思考様式である。西洋諸国の過激派ナショナリストは白人でキリスト教徒というアイデンティティと社会的に伝統主義の価値観を共有しているというだけでプーチン大統領との自然な絆があると思い込んでいるが、常識をわきまえたものなら誰であれそれがいかに馬鹿げたことかはよくわかる。こうした観点から、日本国民を間違った認識から解放する必要がある。ヨシフ・スターリンは第二次世界大戦の最後に日本との中立条約を一方的に破棄したが、それはヨーロッパと中東でやってきたことと同じことをしたに過ぎない。ロシア人にとって日本は何ら特別な国でもないので、「文化的ロマンチシスト」達は同じ過ちを繰り返してはならない。
最後に日本の政策形成者達はロシア人が頻繁に口にする「日本の専門家に会うといつでも北方領土問題について聞かされるのでうんざりしてくる」という不満の真の意味を再考する必要がある。私の理解では、それは文面よりもさらに深い意味があると思われる。ロシア人は日本人にはもっと「成長」して他の問題も議論できるようになって欲しいと言いたいのかも知れない。彼らが日本人を見る目線は、日本人が今もなお歴史認識に拘る韓国のナショナリストを見る目線と同じなのかも知れない。
領土問題が日本にとって重要なことは当然だが、我々としてもそれと並行してロシア人の印象に残るような世界と地域の将来像を示さねばならない。彼らに日本の専門家が逆に「日本人以外の諸国民がロシア人と会う時には何を話すのか」と問い返してみればという興味もある。アメリカ人は何を話すのか?ヨーロッパ人ならどうか?中国人ならどうか?インド人、アラブ人、イラン人となるとどうなるのか? ここに挙げた諸国民はロシアのグローバルな地政学および地形学の戦略で重要な相手ばかりである。ロシア人がこの疑問に答えることがあれば、それは将来に向けた二国間外交に役立つかもしれない。(おわり)
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投稿履歴
(連載1)ロシアの対欧州・中東戦略から学ぶべきこと
河村 洋 2019-04-03 17:54
(連載2)ロシアの対欧州・中東戦略から学ぶべきこと
河村 洋 2019-04-04 13:57
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