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2019-05-21 14:25
(連載2)アメリカ民主主義の危機
河村 洋
外交評論家
そうしたエゴイズムがもたらす腐敗は、フリーダム・ハウスが国別で民主主義のレベルを評価するうえで重要になっている。このレポートが挙げる第三の点は、透明性と公務の規範である。トランプ氏は近代民主主義の倫理的基準を頻繁に破っている。中でも彼の関連企業は問題のある国々からの資金流入がある。トランプ・オーガニゼーションはマンハッタンでの建設プロジェクトのために、中国の国営企業である上海城投資集団からの投資誘致の交渉を行なっていた。また大統領選挙の直後にはサウジアラビアのロビイストがトランプ氏のホテルの部屋を借りきっている。これら外国からの介入の他にも、ジャレド・クシュナー氏とイバンカ・トランプ氏の登用は第三世界並みのネポティズムである。こうした利益相反は非常に多い。第四の点は、トランプ氏は結果が思わしくないと選挙の正当性を叩くことである。2018年の中間選挙ではトランプ氏は自分の支持者に対して、民主党が投票で不正行為を行なったと証拠もなしに言い立てた。他方で彼の政権はゲリマンダーやロシアなど外国勢力の介入にはほとんど関心を示さない。
これら4点の国内問題に加えて、第五の点はトランプ氏が民主化促進と集団防衛を軽視しているので、同盟国と国際社会からアメリカへの信頼は低下する一方である。他方でロシア、サウジアラビアからカンボジアまで、専制諸国はトランプ政権がアメリカの価値観を掲げなくなったことを歓迎している。アメリカとの熾烈な貿易戦争に直面している中国でさえ、この調子なら自国の権威主義的な開発モデルを第三世界に輸出できるとして歓迎している。フリーダム・ハウスはこのことがリベラル世界秩序の崩壊を刺激すると懸念している。ここでフリーダム・ハウスが挙げた5つの点はロシア捜査とも深く絡み合っている。トランプ氏が任命したウイリアム・バー司法長官については、ロバート・モラー氏と彼の同僚検察官達がトランプ氏は訴追可能だと述べているにもかかわらず、モラー報告書の提言を歪曲したとの疑念も生じている。現政権の非行は特に法の支配と選挙の正当性を損なっている。
問題は共和党がトランプ氏に対して宥和姿勢なことである。これは3月にアメリカン・エンタープライズ研究所が非公開で設定したディック・チェイニー元副大統領とマイク・ペンス副大統領の会談に典型的に表れている。チェイニー氏は同盟国との摩擦の増加と「オバマ式」の非介入主義に対する懸念を述べる一方で、ペンス氏はトランプ大統領を選んだのは有権者であり、政権としてはそうした期待に沿うようにしていると言って正当化した。さらにマックス・ブート氏は5月9日付けの『ワシントン・ポスト』紙論説で「マルコ・ルビオ上院議員とリンゼイ・グラム上院議員のような共和党の重鎮は過去に民主党の不正行為を糾弾しながらロシア捜査でのトランプ氏の違法勝つ非倫理的な所業を容認している」と述べている。
民主主義の普及はアメリカの覇権の中核となる価値観である。現在進行中の中国との貿易戦争は大いに注目されているが、その勝敗の行方は世界秩序から見れば局地戦に過ぎない。これはロシアのセルゲイ・ラブロフ外相が4月に行なった「西側のリベラルな社会モデルは死滅しつつあり世界はもはやアメリカを信用していない」という演説に典型的に表れている。多くの同盟国が依然として対米関係を最重視しているとはいえ、トランプ政権によってアメリカへの信頼はますます損なわれている。そのことで世界の不安定化は進む一方である。(おわり)
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(連載1)アメリカ民主主義の危機
河村 洋 2019-05-20 11:18
(連載2)アメリカ民主主義の危機
河村 洋 2019-05-21 14:25
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