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2019-05-29 12:24
(連載2)米中貿易戦争-TPPが招く思わぬ日本国の危機
倉西 雅子
政治学者
米中貿易戦争をめぐる中国企業の海外移転は政治分野にも波及するものと予測されますが、日本国も‘蚊帳の外’というわけにはいかないようです。まずもって警戒すべきは、TPPなのではないかと思うのです。その理由は、中国企業の移転先には、ベトナムといったTPP加盟国が含まれているからです。TPP加盟国における製造拠点の設置には、中国企業にとりまして、グローバル戦略上において二重のメリットがあります。主要なメリットは、対米輸出において高率関税を逃れることができる点ですが、このメリットは、TPP非加盟国に製造拠点を移しても同じです。
その一方で、TPP加盟国への移転には、もう一つのメリットがプラスされます。それは、TPP協定に定められた原産地基準を充たしていれば(付加価値基準の例では55%…)、中国企業は生産国の製品として無関税でTPP加盟国に輸出できるメリットです。この仕組みを考慮すれば、中国企業が、アメリカ市場のみならず、日本市場をも自国製品の輸出先としてターゲットに定めることは十分に予測されます。国民感情は別としても、日中両国政府は、両国間の冷却期間は去って‘関係は正常化した’と盛んにアピールしています。特に中国の‘微笑外交’に押され、日本国政府は、同盟国であるアメリカに同調することもなく、中国からの輸入品に対する関税率は現状を維持しているのです。
かくも対中融和的な傾向にあって、果たして、日本国政府は、TPP経由で中国企業の製品が日本国内に無関税、あるいは、低関税で大量に流れ込んできた場合、どのように対処するのでしょうか。日本企業は、リスク含みの中国市場からは撤退したとしても、国内にあって中国企業との厳しい価格競争に晒されるかもしれないのです。
トランプ大統領が就任後、真っ先にTPPからの離脱とNAFTAの再交渉に取りかかったように、自由貿易圏の形成には、域内の先進国にとりまして不利な側面があります(非加盟国企業による加盟国生産拠点からの輸出の増加…)。米中貿易戦争は、TPPのマイナス面を増幅させる可能性がありますので、日本国政府は、米中貿易戦争の長期化を見据え、最低限、TPP加盟諸国に対して中国企業による迂回輸出の拠点化の問題を提起すべきではないでしょうか。(おわり)
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(連載1)米中貿易戦争-TPPが招く思わぬ日本国の危機
倉西 雅子 2019-05-28 15:14
(連載2)米中貿易戦争-TPPが招く思わぬ日本国の危機
倉西 雅子 2019-05-29 12:24
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