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2019-09-11 11:11
(連載1)売られた喧嘩は買わなくてはならない
袴田 茂樹
日本国際フォーラム評議員
日露関係を熟知している知日派のロシア人が、以前私に個人的に次のように述べた。「ロシアは日本の交渉術が大変気に入っていて、100年でも200年でもこの交渉を継続してもいいと言っている。ロシア側はいろいろ難癖をつけ、日本から様々なお土産をもらい、しかも領土交渉ではまったく前進がない。日本は日露関係の歴史についても事実関係をはっきりと発信していない。『百回の首脳会談は一回の歴史的真実の発信に如かず』で、日本側がどんどん歴史発信しないと、誰がやるのだろう」。日本人は、対人関係でも対立を避けるために、不満があっても婉曲に表現する。10言いたいことがあっても、3か4を述べれば、相手は推測、忖度して理解するからだ。ただこれは、日本が島国かつほぼ単一民族で、文化や心理を共有しているからだ。
しかし、国際社会では民族、宗教、文化、価値観、生活習慣が異なる人たちが混住し、間違いや批判すべき事があれば、遠慮なくはっきりと指摘・主張しなくてはならない。10言いたいことがあれば、時には15述べなくてはならないのだ。国際会議でも外交でもこれは常識である。かつて我が外務省の外務副大臣が、彼が重視していることとして「私が学んだモットーは『売られた喧嘩は買わない』ということだ。これは外交でも同じで、一部の近隣国から低次元の喧嘩を売られも、彼らの低い次元に降りて行って、言い争ってはならない。国連など国際世論に働きかければ、日本支持の国際世論を作ることができる」と述べた(『日本国際フォーラム会報』2016年冬季号)。ここで問題なのは、低次元の喧嘩は買わないと言っている間に、その「低次元の論理」が国際的に浸透してしまうことだ。そして、国連やユネスコで日本側が客観的な事実を伝えようとした時には、もはやそれは全く受け付けない。韓国による慰安婦問題がその例だ。売られた喧嘩は買わなくてはならないのである。
日露関係についても、プーチン大統領やロシアの首脳、政府関係者たちが、国際会議や記者会見などで歴史を自国に都合良く歪曲して勝手放題を述べても、日本側は沈黙していたり、その問題に関する自らの見解や客観的な事実をきちんと国内・国際発信したりしないことが多い。国際常識では、このような態度は、日本側が反論できないか、あるいは相手の論理を受け入れた、と見られる。日露間の合意には、「4島の帰属問題を解決し両国関係を完全に正常化する」という東京宣言がある。これは1993年に細川首相とエリツィン大統領の間で調印された宣言だが、プーチンも大統領として2001年のイルクーツク声明、2003年の日露行動計画で東京宣言を基礎にして平和条約を締結するとの日露合意に署名している。
つまり、プーチンは日露間には北方4島の帰属問題が未解決の領土問題として残っていることを明確に認めていた。また、この東京宣言の文言はこれまで日本の対露交渉の基本方針としてきた。しかし、2005年9月になって彼は「4島は第2次大戦の結果ロシア領となった。国際法的にも認められている。この点について議論するつもりは全くない」と述べ、歴史を強引に歪曲した。今年1月の日露外相会談の際やその後もラブロフ外相は、「第2次世界大戦の結果を日本が承認することが平和条約交渉の絶対の前提」だと述べたが、彼が強硬派なのではなく、ただ忠実にプーチン路線を踏襲しているにすぎない。(つづく)
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