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2019-09-25 11:33
(連載2)首相解散権の制約こそ英国混乱の原因
篠田 英朗
東京外国語大学大学院教授
しかし解散権を奪われたキャメロン首相には、それができなかった。そこで首相が首相としての議会の信任を確保するためには、重要事項の決定を国民投票に回して誤魔化すしかなかったのである。2011年議会任期固定法によって生じた国制(憲法)改革は、実際には残存する議会主権や議院内閣制の考え方と整合性のないものだった。そのため矛盾が顕在化したのが、2016年国民投票であり、それに引き続く収拾不能な混乱であった。
日本においても改憲論議の中で、立憲民主党が首相解散権の制約を提案している。首相解散権は、議院内閣制の枠組みの中で三権分立を図るために、近代議会政治の中で培われて発展してきたものだ。「アベ政治を許さない」勢力の支持固めの発想だけでなく、各国の様々な実例をふまえた慎重な検討をしてほしい。(そもそも本来は、野党第一党には政権交代を目指してもらうのが王道であり、あたかも第三党のように首相解散権を制約して議会の現有勢力の確保を優先する関心を持っているだけでいいのかも、問い直してほしい。)
日本国憲法は、その前文において、「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動」するという文言から始まる。憲法学者の方々は、やたらと「国民主権」「国民主権」「国民主権」と強調する。しかしそれは困った態度だ。拙著『憲法学の病』でも指摘したが、日本国憲法の「一大原理」は、「国政は、国民の厳粛な信託(trust)によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者 がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」という、国民と政府との間の「信託」原理である。実体性のない「国民」の「主権」ばかりを強調して全ての議論を押し切ろうとする憲法学者によく見られる発想は、日本国憲法の原理ではない。実際の日本国憲法典は、議会を通じた政治の調整を求めており、今回のイギリスの国民投票以降の混乱を避けることを要請している。
GHQは、英米法の考え方にそって憲法草案を起草した。しかしアメリカ流の大統領制にもとづいた三権分立の導入を避けた。そのため、日本国憲法は、イギリス政治を模した制度設計を取り入れている。「国会が国権の最高機関」で、首相が「議会の議決」で決められる制度をとりながらも、「三権分立」も確保されるのは、首相に「解散権」があればこそだ。解散権がなければ、三権分立は溶解し、議会の独裁に陥るのでなければ、「何も決められない政治」が引き起こされる。イギリスは日本国憲法がモデルとしている国だ。そのイギリスが解散権を変更したことで、どれだけの混乱を経験する羽目になったかは、日本人はよく見ておくべきだ。(おわり)
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投稿履歴
(連載1)首相解散権の制約こそ英国混乱の原因
篠田 英朗 2019-09-24 14:09
(連載2)首相解散権の制約こそ英国混乱の原因
篠田 英朗 2019-09-25 11:33
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