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2019-12-10 19:30
GSOMIA失効回避に日本外交の可能性をみた
沢渡 慎吾
会社員
今般、日韓の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)をめぐって「土壇場での大転換」(e-論壇『百花斉放』11月22日付、鍋嶋敬三氏の論考文中での表現)が行われた。その余波として、日韓の間では、なおも感情的な応酬が散発的に起きているが、それは東アジア安全保障という大きな文脈から考えれば些末なことである。GSOMIAの持つ価値は鍋嶋氏の上記論稿に詳しいのでここでは書かないが、鍋嶋氏のご指摘の通り、GSOMIAが、ほぼ失効するものと考えられていたことを思えば、今回の展開は非常に良いニュースであった。
日韓の間の歴史問題は脇に置くとして、日米と中露の勢力の狭間に位置する朝鮮半島にあって、韓国がそのどちらにもいい顔をしたいのは心情的には理解できる。だが、そういう態度を取れば取るほど、米国や中国から立場を決めるよう圧力を掛けられるのは当然といえば当然だ。今回、韓国は自国のメンツを賭けて日本との「GSOMIAゲーム」をしたのであろうから、そうした地政学的な観点は等閑視されていたかもしれないが、横から見ていた米国からすれば日韓のメンツ云々よりも、韓国の東アジアにおけるポジションが揺らいでいることのほうが、気が気でなかったのではないか。そういう意味で、今回の「結末」は、米国の圧力を受けた韓国のいわば「オウンゴール」であって、日本の外交努力についてはあまりスポットが当たらなかった。
とはいえ、米国の努力もさることながら、日本も賢明な外交をしたと思う。今回、韓国に対して過剰なほど硬化する日本の世論にもかかわらず、安倍政権はその空気感に迎合し煽動的になることはなかった。日本政府は可能な限り抑制的に振る舞い続け、与野党議員も韓国人の怒りを買ったり、米国を失望させたりすることのないよう言葉を選んでいたように思う。その上で、日本が示した原則が最後までブレなかったことが、最後の「土壇場での大転換」に繋がったのだろう。また、おそらくその裏では、多くの外交官などの官僚や専門家たちが奔走し、文在寅大統領が振り上げた拳を下ろす勇気を出せるよう環境作りをしたに違いない。
もちろん、今回のGSOMIAの失効回避によって、日韓関係はかろうじて決裂を免れたに過ぎず、状況が抜本的に改善したわけではない。とはいえ、少なくとも結果的には、鍋島氏が危惧したような米韓同盟の危殆化と「中露の不戦勝」は回避することができた。米国としても、もし今回、日本が賢明な外交姿勢を示していなかったとすれば、また違った対応に出たかもしれない。その意味でも、今回の一件は、日本外交の可能性を考える上で前向きな意味があったように思う。そして日韓両国にとっても、両国間でさまざまな問題を抱えつつも、安保協力を深めていくための良い教訓になったのではないだろうか。
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投稿履歴
アジアの戦略構図に影響、GSOMIAの失効
鍋嶋 敬三 2019-11-22 10:27
GSOMIA失効回避に日本外交の可能性をみた
沢渡 慎吾 2019-12-10 19:30
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