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2019-12-16 19:35
(連載1)中国元スパイによる豪州への機密漏洩事件について
宇田川 敬介
作家・ジャーナリスト
諜報活動というと日本では、映画「007」シリーズを連想する人は多いと思う。しかし、同シリーズを見た英国の秘密情報部MI6の実際の職員は、このシリーズはあくまでも娯楽映画であり、仮に007のように、街中でカーチェイスや銃撃戦をやったり、基地のような場所で大爆発をおこせば、翌日の新聞のトップ記事になり、すぐさま懲戒の対象になると笑っていたとBBCが報じている。諜報活動というのは、007のように華麗ではなく地道で厳しい仕事なのだ。とくに心理工作、すなわち他人の心を操ることは極めて難しいことであり、敵国の、それも見ず知らずの集団を誘導することを、007のように簡単にできるはずもない。
ところで、ある国の諜報活動において、一番恐ろしいのは自国の諜報部員の裏切り(寝返り)である。こうした事態は、雇い主である政府が諜報部員の心をあやつりきれなかったことで発生する。たとえば、AFP通信は11月23日 付で、オーストラリアへの亡命を希望する中国の元諜報部員が同国に中国に関する膨大な情報を提供したと報道した。もともと、この諜報部員は、オーストラリア国内で工作活動をするにあたり、オーストラリア側が普通では知りえない中国に関する情報を本国の当局から与えられており、その情報を少しずつオーストラリア側に渡すことで現地関係者の信用を得ていたというわけだ。
ここまでは、諜報活動としてはごく普通の行動であるといえる。というのも諜報部員あるいは工作員は、活動先において、信用されることが何より重要だからだ。こうした信用を手に入れつつオーストラリアで日常生活を送り、周囲に違和感を与えないようにしながら現地での諜報活動ないしは工作活動をじわじわと進めていくのである。ただし、現地での信用を得るために使う情報は、自分の持つすべての情報の10%程度が上限とされている。残りの90%は、決して相手に渡せないものばかりなのだ。
したがって、こうした諜報部員が裏切る(寝返る)ということは、すなわち、相手に伝わってはいけない残りの90%が、全て出てしまうということを意味する。AFP通信によれば、この元諜報部員がオーストラリアに流した情報には、香港で活動する中国軍の情報将校の身元や、香港と台湾、オーストラリアで行われている諜報あるいは工作活動の内容とその資金源に関する詳細な情報が含まれていたという。いうまでもなく、これらの情報がオーストラリアに伝わったことは、中国にとってはとてつもない被害だ。(つづく)
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宇田川 敬介 2019-12-16 19:35
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