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2020-03-10 11:24
中国発コロナウイルスの怪と日本の対応(2)
坂本 正弘
日本国際フォーラム上席研究員
1.直近の状況
3月5日付け本e-論壇掲載の拙稿「中国コロナウイルスの怪と日本の苦悩」で述べた通り、WHO事務局長テドロスは、3月2日時点での世界のコロナウイルスに関して、韓国、イタリア、イラン、日本の4カ国の状況を最も懸念するが、中国の状況は改善しており、その他の世界の状況は深刻でない、とした。そして、日本人を渡航制限する国が現れだした。しかし、その後の状況をみれば、感染は世界大に急拡大し、下記注のように、韓国、イタリア、イランでの状況は深刻であるが、より憂慮されるのは欧州諸国での急拡大とともに、米国での増加が顕著なことである。日本の感染者、死者数の増加は、むしろ抑制されている感がある。(注:John Hopkins大学作成:3月9日の主要国の感染者(死者)数は 中国80699(3097)、イタリア7375(366)、韓国7314(50)、イラン6566(194)、フランス1126(19)、ドイツ1040(0)、スペイン673(10)、米国537(21),日本502(7)などで、クルーズ船696(7)である。)
2.欧米での感染激増と当局の混迷
以上のように、欧米諸国での感染が急増しているが、当局の対応に混乱すら見られるのが憂慮される。イタリアでは、感染者・死者の急増に対し、北部での移動が制限され、教会すら封鎖される状況だが、シェンゲン協定で人の移動の保障されるEUでは、感染はフランス、ドイツをはじめ、スペイン、ベルギーオランダと全域に急拡大している。その急激さに、マスクやPCR検査キットも不足し、特効薬不在の中、各国当局はその対応に困惑している。
米国での感染も急激であり、日本の感染者数・死者数を越えた。トランプ大統領は、楽観的であるが、コロナウイルス対策の責任者であるペンス副大統領はPCR検査キットの数も十分ないと警鐘を鳴らす。さらに、日本も取り扱いに苦しんだ、大型クルーズ船問題への対応は難問である。大統領予備選最中であるが、CNNはコロナウイルス問題に時間を多く咲き、予備選での集会を自粛すべきでないかとも警戒する。株価は、この所、乱高下だが、下落が大きく、ここでも混乱が見られる。
3.中国の高姿勢
かかる中で、目立つのが中国でのコロナウイルス問題の鎮静化と、共産党体制礼賛の高姿勢である。3月5日掲載の拙稿で指摘したように、中国は、コロナウイルス問題では社会に謝罪していない。むしろ中国は武漢封鎖の大犠牲を払って、コロナウイルスの世界への感染を抑えた。コロナウイルスの世界での感染は他の国の責任で、中国の責任ではないとする。中国は、コロナウイルスの再輸入防止のため日本や韓国などからの入国制限を課するに至っている。
中国は、すでに8万人を超える感染者のビッグデータをAI分析しているが、そこで得た医療技術・情報を、後発コロナウイルス感染国に輸出して、恩を売り、国際社会への影響力を高める可能性がある。現在の欧米での急激な感染拡大はその可能性を高めよう。
中国当局によれば、中国感染者は8万人を超え、死亡者数も3千を超える。しかし、1千万人の都市を封鎖し、IT技術を全国張り巡らす監視社会を採用できる強権・独裁体制により、感染者感染数も死者も減少しており、感染者の5万7千人は回復しているという。中国当局の公表数字には疑問もあろうが、この傾向が続けば、中国での治療体制には今後余裕ができ、中国は、マスクや検査キットや試薬などに輸出余力が出てこよう。欧米の状況が、上記のような医療器材が不足の状況であれば、その医療情報と共に、これを輸出し、恩を売り、その影響力を高める絶好の機会とするはずである。
米国が、中国の申し出でを簡単に受けとは思えないが、欧州諸国はこれを受容し、中国が、欧州への影響を増大する好機となるシナリオが考えられる。5Gに関しては、多くの欧州諸国がこれを受け入れたが、コロナウイルス問題は生命に関することであり、更に、中国のカードの効果を強め、米中関係にも影響することになろう。
4.日本の役割
日本は、安倍首相の決断で厳しい措置を行い、この1-2週が瀬戸際との苦しい戦いをしている。検査体制の不備は依然続き不安の日々であるが、国際的比較でみると、必ずしも悲観一色の状況ではない。すでにコロナウイルスとの闘いの経験を積み、クルーズ船問題にも対応してきた。新型のPCR検査キットも、島津製作所が今月中に5万台生産体制にすることが伝えられるが、情勢の好転を期待したい。
欧米が混迷を深め、中国の独走が予想される中で、コロナウイルス先発被害国・日本が、自己の医療情報、技術を武器に、国際連帯を深める提案を行うべきと考える。すでに日米の間では情報の交換が行われているようだが、これを欧州に拡大し、G7ベースの医療経験の共有、医療機器の融通を提唱してはどうか?韓国も、被害国として貴重な医療情報・機材を持っていると思われ、日米韓の枠組を強めるべきではないか。また、この問題で模範的対応をしている台湾との関係を強化するとともに、台湾のWHO加盟を提案すべきであろう。
なお苦しい日々であるが、コロナウイルスが引き起こす、世界のパワーバランスの変化に対応し、自由と民主主義の価値を守ることは日本の責務である。
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中国発コロナウイルスの怪と日本の対応
坂本 正弘 2020-03-05 12:04
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中国発コロナウイルスの怪と日本の対応(2)
坂本 正弘 2020-03-10 11:24
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